【本誌調査で判明】米政府、モスクワの大使館維持のためにロシア企業と契約 800万ドルの支払いは妥当か?
THE PRICE OF DIPLOMACY
「制裁は形だけ」と思われる
同社はオランダ籍のビオン社のロシア事業が、22年11月に売却されたもので23年10月には完全にロシア人所有の会社になった。同社自体はアメリカの制裁対象ではないが、米政府はプーチンの「戦争マシン」を弱体化させるため、ロシアのエリートや金融機関、その他の業界にも繰り返し制裁の網をかけてきた。ジョー・バイデン米大統領は23年12月、ロシアの軍事サプライチェーンを制裁対象とする大統領令に署名したばかりだ。
ある政府当局者は、省内では契約が制裁対象の個人とつながっていないことを確認するためのデューデリジェンス(適正評価手続き)を実施していると語った。だがウクライナの運動団体「戦争と制裁」は、カナダと同様にビンペルコムを制裁リストに加えるよう各国に求めている。
ビンペルコムは「ロシア連邦政府にとって重要な収入源」だと、同団体の声明は指摘する。「(同社は)ウクライナの民主的なプロセスと制度を弱体化させ、平和、安定、安全保障、主権、独立を脅かしている」
別の運動団体「リーブ・ロシア」も、声明で次のように述べている。「ビンペルコムが積極的にロシア政府に協力していることは、同国政府関係者も認めている。特筆すべきは(ロシア)政府の要請によって、22年2月24日以降に占領されたウクライナ領土でのロシアとの通信接続の確立に協力し、国内ローミングサービスを提供していることだ」
ビンペルコムのアレクサンドル・アレクサンドロビッチ・パンコフ社長は国際的な制裁対象ではないが、制裁データサイト「オープンサンクションズ」によると、ロシア政府とつながりがある。ロシア国内の報道によれば、かつて連邦政府通信情報局や連邦通信情報化省などの政府機関で仕事をしていたという。
米国務省の報道官は本誌に対し、全ての在外公館は基本サービスを現地企業に依存していると語った。別の政府関係者は、アメリカや第三国の業者をロシアに呼び寄せるのは難しいため、今契約は現実的なものだと述べた。それでも現地企業との契約には安全保障上のリスクが付きまとうことは、両者とも認めている。
ビンペルコムを除けば、本誌が分析した企業はいずれも制裁対象の企業と直接的な関係はないが、明確な判定は難しいと専門家は言う。