最新記事
米ロ関係

【本誌調査で判明】米政府、モスクワの大使館維持のためにロシア企業と契約 800万ドルの支払いは妥当か?

THE PRICE OF DIPLOMACY

2024年3月13日(水)13時30分
ケイト・プラマー(本誌記者)

240319p42_CRT_03.jpg

ウクライナは戦場、バイデンは議会で苦戦中(23年秋ホワイトハウスで) DREW ANGERER/GETTY IMAGES

英サセックス大学の汚職研究センターのロバート・バリントン教授によると、制裁対象となった企業は実態不明のオフショア企業のネットワークを使ってオーナーを隠している。そのため米大使館と取引のあるロシア企業の「実質的支配者」(UBO)が制裁リストに載った人物ではないと断定するのは「極めて困難」だと、バリントンは言う。「オリガルヒ(新興財閥)はたいがいこうしたペーパーカンパニー網を通して何重にも偽装を施し、誰が出資し実権を握っているか絶対に分からないようにして事業を行っている」

制裁対象かどうかにかかわらず、わずかでもロシア経済にキャッシュが注入されれば、プーチンを助けることになるという議論も聞かれる。

ウクライナ系アメリカ人ジャーナリストのマーク・テムニッキーは「米大使館がロシアで活動を続け、ロシア企業に物資やサービスを発注していれば、制裁の効果が弱まる」と警告する。ロシア企業の受注は小規模であれロシア経済を活気づけ、回り回ってロシア軍の戦費確保にも役立つというのだ。

テムニッキーは、米大使館がロシア企業と取引していれば、経済制裁はさほど厳しく守られていないといった印象を与えかねない、とも指摘する。「ほかの権威主義的な国々が『制裁は形だけ』と解釈して、自分たちも好き勝手に(武力行使)できると思いかねない」

機密情報が盗まれる危険性も

英キングズ・カレッジ・ロンドンの経営学大学院のマイケル・ウィット教授も米大使館の仕事で「ロシア企業や従業員が得る追加収入は少額であれ、ロシア経済の安定化に役立つ」とみる。「企業と従業員は税金を払うから、ロシア政府の戦費調達を利するだろう」

ただし、ロシアとの外交的パイプを維持するメリットを考えれば、大使館がロシア企業に払うカネは「必ずしも無駄とは言えない」と、ウィットはクギを刺す。

一方、ジョージ・W・ブッシュ元米大統領の特別補佐官を務めたマイケル・アレンに言わせれば、米大使館の取引はロシアで今も事業を続けている米企業にとって悪い見本になりかねない。エール大学経営学大学院傘下の研究所によると、開戦後に1000社超の米企業が程度の差はあれロシアでの事業を縮小すると公表した。ロシアにとどまった企業も何百社とあり、撤退しなかったことで批判にさらされてきた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中