最新記事
米ロ関係

【本誌調査で判明】米政府、モスクワの大使館維持のためにロシア企業と契約 800万ドルの支払いは妥当か?

THE PRICE OF DIPLOMACY

2024年3月13日(水)13時30分
ケイト・プラマー(本誌記者)

有権者はどう受け止める?

米政府が大使館のために資金を支出する結果としてプーチンが恩恵を受けるとしても「その金額は全てを合わせても非常に小さい」と、英ノッティンガム大学のタイラー・クストラ助教(政治学・国際関係論)は言う。「しかし(大使館を通じて)獲得できる情報の価値は極めて大きい。その価値は支出を上回る」

英エクセター大学デービッド・ルイス教授(国際政治学)に言わせれば、一連の契約は大使館が通常に機能するために欠かせないものであり、その大きな役割を考えれば「コストは微々たるもの」でしかないという。

ビンペルコムとの契約は「外交官や大使館職員などがロシアで携帯電話を使うためのものだろう」と、ルイスは指摘する。「ロシアで活動する際は、ロシアの携帯電話会社を利用せざるを得ない。この会社と契約を結ぶことは、ロシアで業務を行うための唯一の方法なのだろう」

それに、このようにロシア企業と契約を結んでいる国はアメリカだけではない。例えば、イギリスなども大使館運営のためにロシア企業を活用し続けている。

ロシア企業と契約しないためにロシアとの外交関係を終わらせるべきだという主張には賛成できないと、マイヤーズは言う。「大使館の閉鎖は、相手国にとって最大級の侮辱だ。対立をあおることこそあっても、和らげる役には立たない。いずれロシアとの関係をリセットすべきときが来ることを忘れてはならない」

インガムも言う。「戦争が終われば、アメリカとロシアがこのまま対立し続けるわけにはいかない。その点ではEU諸国も同じだ。好きか嫌いかは別にして、ロシアが重要な国であることは間違いない」

ただし、有権者がどう考えるかは別問題だ。一連の契約は「基本的にやむを得ないもの」だが、「有権者は好意的に受け止めないだろう」と、英王立統合軍事研究所のニック・レイノルズ研究員は指摘する。

元大統領特別補佐官のアレンも、ロシア側に流れる金額以上に、イメージの問題が心配だと言う。「気がかりなのは、象徴的な意味合いだ。この問題は、有権者の抱く印象を決定づけてしまうだろう」

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず

ビジネス

米債務持続性、金融安定への最大リスク インフレ懸念

ビジネス

米国株式市場=続伸、堅調な経済指標受け ギャップが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米景気好調で ビットコイン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中