韓国全土で医療の混乱、政府の医師不足解消策に反発して研修医は大規模ストを強行した
研修医600人が退職届を提出したセブランス病院 撮影:佐々木和義
<韓国政府が医師不足対策として大学医学部の定員を増やす方針を表明。定員増は医療業界や市民団体の反発を招き、医師会もストライキを呼びかけた。政府方針に世論の支持は増しているが......>
韓国政府が医師不足対策として大学医学部の定員を増やす方針を発表すると、医学部の定員増加に反発する研修医が集団で退職届を提出して医療現場を離れるストライキを強行、韓国全土で医療の混乱が起きている。
退職届を提出した研修医は9900人余りで、専攻医指導病院に勤務する研修医1万3000人の4人に1人に相当する。なかには99%が退職届を提出した病院もある。
韓国政府は2月6日、大学医学部の定員を現在の3058人から5058人に増やすと発表した。韓国の人口1000人あたりの医師はOECD平均3.7人を下回る2.6人で、保健福祉部は現状のまま推移すると10年後の2035年には1万5000人が不足すると予測した。
2022年、医学部の定員を増やす方針を明らかにして医療業界や市民団体等の聞き取り調査を実施し、昨年11月には各大学の増員枠を調査して最小2151人、最大2847人という回答を得た。
医学部定員増に対する医療界の大反発
一方、大幅な定員増に大韓医師協会が反発。「優秀かつ完全な韓国の医療システムを崩壊させようとするもの」と主張して会員にストライキを呼びかけ、研修医で構成される専攻医協議会もオンライン総会で反対行動について話し合った。1割近い開業医が呼応して休診、研修医は88.2パーセントが団体行動に参加すると回答し、2月19日に6415人、翌20日に2401人が退職届を提出した。
研修医が最も多いセブランス病院は612人の99パーセントが辞表を提出、患者数は変わらないことから教授や看護師の負担が増えており、なかでも研修医が担ってきた入院患者への対応が大きな負担増になっているという。報道によるとソウル5大病院の一つである同病院は手術数を50パーセント減らしており、サムスンソウル病院は40パーセントから50パーセント、ソウル大学病院、ソウル峨山病院、ソウル聖母病院はそれぞれ30〜40%減らしているという。
救急患者の受け入れ拒否事態が拡大
医師不足に陥った病院が救急患者の受け入れを拒絶する事態が拡がっている。慶尚南道昌原市では呼吸困難に陥った1歳児が救急病院のたらい回しに遭い、救急通報の2時間56分後に自宅から65キロ離れた病院に到着した。大田市ではたらい回しにあった80代の心停止患者の死亡が確認された。
大量離脱の影響は軍や消防にも波及する。研修医が集団行動を開始した19日、国防部は軍病院の救急室を民間人に開放し、軍将兵への医療体制に影響が出ない範囲で、外来患者の診療や軍医官の民間病院への派遣を検討すると発表。翌20日から民間病院との協議を開始した。