最新記事
中東

世界がまだ気付いていない「重大リスク」...イスラエルとヒズボラの「戦争が迫っている」と言える理由

The Inevitable War

2024年3月6日(水)11時08分
スティーブン・クック(米外交問題評議会上級研究員)

それでも、イランがヒズボラへの手綱を緩める可能性は十分にある。ヒズボラ指導者のハッサン・ナスララが1月初めに明言したように、イランは中東における武装組織のネットワーク「抵抗の枢軸」の育成に膨大な時間とリソースを投じてきた。

この枢軸には、ヒズボラ以外にイスラム組織ハマスもいる。イスラエルはハマス指導者を捕捉、殺害し、同組織を無力化する決意を固めている。

そうなる可能性が現実味を帯びれば、イランとしてはハマスの敗北を受け入れるより、ヒズボラへの制約を解き放つ可能性が高い。そのXデーは近づいているように思える。

機能しない米議会の罪

イランがヒズボラを抑え込んでいたとすれば、イスラエルについて同様の役割を果たしてきたのはアメリカだ。米バイデン政権はガザ戦争の勃発以来、2つの点について一貫した姿勢を取ってきた。1つは、ハマスは敗北しなくてはならないということ。もう1つは、ヒズボラとイスラエルの戦争は回避しなくてはならないということだ。

ジョー・バイデン大統領はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に対し、レバノンを戦争に巻き込まないようクギを刺してきた。米政権は、ヒズボラとイスラエルの間に戦争が始まって中東全域に飛び火すれば、アメリカとイランの軍事衝突は不可避だと考えている。

バイデン政権の懸念はもっともだが、イスラエル北部のレバノンとの国境地帯への対処についてアメリカの影響力は衰えている。イスラエルではガザ戦争の拡大と対ヒズボラ情勢で、北部から約8万人の住民が避難している。イスラエルから見れば北部はもはや住む場所ではなく、主権さえ脅かされている。強硬措置を取るのは、誰が政権を担っていようと同じだろう。

ガザ戦争で手いっぱいのイスラエルは、アメリカとフランスが主導する外交努力を渋々ながらも検討する姿勢を見せてきた。だが、イスラエルとヒズボラの双方を満足させる提案は示されていない。

イスラエルはヒズボラに対し、2006年に採択された国連安保理決議1701に基づき、イスラエルとの国境から約30キロ離れたリタニ川まで退避するよう要求しているが、ヒズボラはこれを拒否している。一方のヒズボラはイスラエルが国境地帯の部隊を縮小することを望んでいるが、これも実現の見込みはない。

時間ばかりが経過するなか、外交努力に効果がないことが露呈しつつある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米インテル、20%超の人員削減を今週発表へ=ブルー

ビジネス

原油先物は約1%高、対イラン追加制裁や米原油在庫減

ビジネス

ロシアが25-27年の石油・ガス輸出収入予想を下方

ワールド

米厚生長官ら、食品の石油系合成着色料の使用禁止計画
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 4
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    日本の人口減少「衝撃の実態」...データは何を語る?
  • 8
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 9
    なぜ世界中の人が「日本アニメ」にハマるのか?...鬼…
  • 10
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中