金正恩独裁体制の崩壊「5つのシナリオ」を検証する
ON THE BRINK
中国の姿勢が想定外に変われば、北朝鮮は深刻な打撃を被るとも、スナイダーは指摘する。
しかし、中国とロシアは北朝鮮の体制を存続させようとするだろうという点で、専門家の見方は一致している。
それでも、なんらかの理由により、中国とロシアが見限れば、金体制は少なくとも現在の形では存続できなくなるだろう。
「体制が瓦解することになる」と、ヨは言う。
■シナリオ④:自由市場
体制に対する北朝鮮内部からの脅威は、金が中国型の経済改革に乗り出した場合、現実味が増す可能性がある。
中央計画経済の下での厳しい統制を放棄して、市場メカニズムを受け入れる場合だ。
確かに北朝鮮は、自らの政策によって経済難や飢餓を引き起こし、国内に不満分子が生まれる種をまいてきた。
しかし「安定と一族支配を維持するために、中国型の経済改革を実施するのは極めてリスクが高い」と、スナイダーは指摘する。
中国の場合、大躍進などの破滅的な経済政策を取った毛沢東の死後、鄧小平が改革開放政策を進めた結果、今や世界第2位の規模を誇る経済大国へと成長した。
しかし外国から投資を呼び込むためには、投資利益が国に横取りされずに、「きちんと外国人投資家に戻ることを保証する一定の改革」が必要だと、ヨは指摘する。
また、外国との交流が拡大すれば、人々が国の検閲を受けていない情報に触れる機会も増えるだろう。
そうなれば、現体制が近年唱えてきた「自力更生・自給自足」という目標にダメージを与えかねない。
実際、金がこのアプローチを試す気配はほとんどない。父親の金正日(キム・ジョンイル)と同じように、限定的な改革に恐る恐る歩み寄った時期もあったが、すぐに手を引いてしまった。
叔父の張は、中国の経済界に太い人脈があり、そのことも金にとっては不愉快だったと、ヨは指摘する。
こうした人脈と、それと共に入ってくる投資は、「現体制が人々に与えることができない物事をもたらして、いずれ現体制を揺さぶる恐れがあった」と、ヨは説明する。
コロナ禍のピーク以降、金は新しい経済モデルをかじってみるよりも、計画経済の強化と、権力基盤の強化に注力するようになった。
「経済改革が行われる可能性や、市場システムを通じて変化が起こる可能性は、7~8年前のほうがずっと高かった」と、ヨは言う。
「しかし金が韓国の文化コンテンツを取り締まる法律を厳格化し、さらに経済の管理を強化しているところを見ると、少なくとも当面は、その方面での進展は期待できない」