金正恩独裁体制の崩壊「5つのシナリオ」を検証する
ON THE BRINK
PHOTO ILLUSTRATION BY GLUEKIT
<ロシアのウクライナ侵攻で金正恩が人生で初めて得た「真の同盟国」。プーチンと親密度を深めて強気になった金一族の3代目は、好戦的な言辞を弄しているがその足元は落とし穴だらけだ>
2024年の北朝鮮はこれまで以上に好戦的かつ挑発的だ。
軍備増強を最優先し、年明けから新型ミサイルの発射実験を繰り返すなど、着々と戦争の準備を進めているようだ。
「朝鮮半島ではいつでも戦争が起こり得ることは既成事実となっている」
──北朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)総書記は昨年末、新年に向けたメッセージでこう語った。
これで、金は戦闘態勢に入る戦略的決断をしたのではないかとみる向きもある。
「北朝鮮は意図的に緊張を高めている。今ならそうしても何の不都合もないと踏んでいるのだ」と、英キングズ・カレッジ・ロンドンのラモン・パチェコ・パルド教授は本誌に語った。
北朝鮮はロシアのウクライナ侵攻後、対ロ接近を強めてきた。
中国の庇護に加え、ロシアとの関係も深化し、金は大胆になっていると、パチェコ・パルドはみる。
アムンディ投資研究所の地政学部門を率いるアンナ・ローゼンバーグも同意見だ。
「今年、北朝鮮はいつにも増して騒々しいノイズを発するだろう。地政学的な背景を見ると、そのためにおあつらえ向きの条件がそろっている」
アメリカはウクライナ戦争や中東で吹き荒れる暴力に対処しなければならず、今秋には自国の大統領選も控えているため、北朝鮮にかまけているわけにはいかないと、ローゼンバーグは指摘する。
だが「孤立国家」がいつまで持つかは疑問だとの声も聞かれる。
力を誇示する金の戦術は「リスク」を伴うと、パチェコ・パルドも認める。
北朝鮮の行く手には大きな未知数が立ちはだかっている。事と次第によっては金の強気の賭けが裏目に出て、この国は今のような形では存続できなくなる可能性もある。
体制崩壊がどのような形を取るかは分からない。
南北統一が達成されるのか、1948年以来続いてきた金一族の世襲支配が終わるのか。
多くの専門家が一致して認めているように、崩壊の引き金となる出来事はいくつかある。
戦争もその1つ。金の突然死もあり得るし、大衆蜂起が起きれば、軍や警察が政権を見捨てて人民の側に付く可能性もあり、エリート層の一部がクーデターを起こす可能性も否めない。
「中国もロシアも北朝鮮を支援する必要性がなくなれば、即座に見切りをつけるだろう」と、パチェコ・パルドは言う。
その場合、北朝鮮は国連安全保障理事会の制裁の影響をもろに受けることになる。