金正恩独裁体制の崩壊「5つのシナリオ」を検証する

ON THE BRINK

2024年3月1日(金)11時09分
エリー・クック(本誌安全保障・防衛担当)

240305p48_KTA_06.jpg

関係を深める北朝鮮とロシア(昨年9月、ロシアのボストチヌイ宇宙基地) EYEPRESSーREUTERS

米シンクタンク・外交問題評議会の米朝政策プログラムを率いるスコット・スナイダーは「北朝鮮は外から見るよりはるかに強固な体制を保っているようだ」と言う。

一方で、「他の国々より危うい状況にあるのは確かだ」と、米国防総省の元顧問のフランク・アムは断言する。

もしも崩壊するとすれば、どんな道をたどるのか。

金正恩はありとあらゆるシナリオを想定して守りを固めていると、スナイダーはみる。

■シナリオ①:戦争

「金正恩は戦争を行う戦略的決断をした」──北朝鮮分析サイトの38ノースに今年1月、こんな見解が投稿され、大きな波紋を呼んだ。

これは理解し難い主張ではない。北朝鮮は世界でも屈指の軍事化が進んだ国で、軍隊の規模は韓国の2倍を上回る。

今年1月下旬には新型の戦略巡航ミサイルの発射実験を行ったと発表。ただし北朝鮮の国営通信は、実験実施は「地域情勢とは無関係だ」と主張した。

データプラットフォーム「スタティスタ」の数字を見ると、北朝鮮の軍事支出は22年にGDPの3分の1に達したもようだ。21年はGDPの4分の1だったから激増と言える。

北朝鮮は23年11月に初めて偵察衛星の打ち上げに成功した後、18年に韓国と取り交わした南北軍事合意を破棄し、今年に入り韓国側の島々の近くに越境砲撃を行った。

こうした動きと軌を一にして、南北統一政策の転換を宣言。統一を象徴する記念塔も撤去したとみられる。

北朝鮮は通常兵力に加え、サイバー攻撃能力を高めるためにも資源を投入しており、地域においてこれまで以上に危険な存在になっていると、アナリストらは警告している。

緊張が高まれば、挑発行為が起きやすくなり、事態がエスカレートし大変動が起きかねないと、ブルッキングズ研究所東アジア政策研究センターのシニアフェロー、アンドルー・ヨは言う。

とはいえ現状では、行動以前に言説が独り歩きしているようだ。

北朝鮮の軍隊は規模こそ大きいが、韓国軍が米軍などとの合同演習を通じて経験してきたような幅広い訓練を積んでいないと、ヨは指摘する。

今年1月中旬、米軍は韓国軍、日本の自衛隊と共同訓練を行い、韓国支援の約束を果たす姿勢をアピールした。韓国は武器輸出の拡大に注力しつつ、自国の軍備も増強している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア新型ミサイル攻撃、「重大な激化」 世界は対応

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10

ワールド

再送-ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 買春疑惑で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中