金正恩独裁体制の崩壊「5つのシナリオ」を検証する

ON THE BRINK

2024年3月1日(金)11時09分
エリー・クック(本誌安全保障・防衛担当)

240305p48_KTA_04.jpg

公式の場に金正恩の娘の金主愛や妹の金与正(写真)が姿を見せるなど一族支配体制は健在 SOUTH KOREAN MINISTRY OF UNIFICATION/GETTY IMAGES

「全面戦争になれば、韓国では多くの死者が出るだろうが、金とその政権は終わりを迎えるだろう」と、韓国の首都ソウルの国民大学の上級研究員、ピーター・ウォードは1月にBBCに語った。

そのため北朝鮮は振り上げたこぶしを下ろすとみる専門家もいる。

「北朝鮮は韓国を攻撃しない」と、衛星分析を行っている韓国企業SIアナリティクスのマイケル・リーは断言した。

「脅しは続けるだろうが、おおむねレトリックにすぎない」

北朝鮮の軍事力に関して無視できないのが核兵器だ。

外交問題評議会のスナイダーによれば、金は核戦力を保有することにより体制の崩壊を阻止できると期待しているという。

「金には、体制を存続させる手だてとして核兵器を活用したいという狙いがある」のだ。

そこで北朝鮮は、自らの核戦力を韓国政府とアメリカ政府に強く意識させようとしている。

新しいところでは、この1月中旬に、敵対国に人工津波を押し寄せさせることができるという触れ込みの「水中核兵器システム」の実験を日本海で実施。

昨年9月には、核兵器の運搬と発射が可能だという「戦術核攻撃潜水艦」を就役させたと発表した(この潜水艦の真の能力に関しては、西側諸国の専門家の間で疑問視する声も上がっている)。

このほかにも北朝鮮は昨年11月に軍事偵察衛星を打ち上げていて、今年さらに3基を打ち上げる計画だという。

もっとも、北朝鮮にとって力の源泉になるのは、あくまでも核兵器を保有しているという事実だ。実際に核兵器を使用することが力をもたらすわけではない。

「もし北朝鮮がわが国に対して核兵器の使用を試みるのであれば、劇的に強化された韓米同盟の拡大抑止力を活用して圧倒的な報復を行う。それにより、金体制は終焉を迎えるであろう」と、韓国政府は昨年末に表明している。

■シナリオ②:国内の脅威

政権中枢の側近による「宮廷クーデター」で金体制が崩壊する可能性はあり得るが、本誌が話を聞いた専門家によれば、大衆蜂起が体制の打倒につながる可能性は極めて乏しい。

韓国政府が人権擁護や脱北者支援、北側への情報拡散などの活動により、北朝鮮人民の心を金体制から引き離すことにある程度成功する可能性はある。

しかし、北朝鮮には強大な治安組織が存在していて、「人民が不満を抱いたとしても抵抗できないだろう」と、ブルッキングズ研究所のヨは言う。

人民が結束して立ち上がることは「極めて考えにくい」と、元国防総省顧問のアムも述べている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国防長官候補巡る警察報告書を公表、17年の性的暴

ビジネス

10月の全国消費者物価、電気補助金などで2カ月連続

ワールド

サハリン2はエネルギー安保上重要、供給確保支障ない

ワールド

シンガポールGDP、第3四半期は前年比5.4%増に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中