最新記事
ウクライナ情勢

ロシアがついにHIMARS撃破でウクライナに動揺広がる

Russia's HIMARS Strike Sparks Ukraine Concerns

2024年3月11日(月)18時50分
デービッド・ブレナン

ウクライナ軍のヘルソン奪還にも力があったとされるHIMARS(写真はラトビアで演習に参加する米軍のHIMARS。2022年9月) U.S. Army photo by Sgt. Lianne M. Hirano via ABACAPRESS.COM

<アメリカがウクライナに供与したHIMARSが、初めてロシア軍に破壊された。ここでもウクライナとロシアのバランスが変わってしまったのか

ロシア軍をさんざん痛い目に合わせてきたアメリカ製のM142高機動ロケット砲システム(俗称HIMARS=ハイマース)。これを撃破するという目標を、ロシア軍は20カ月かけてついに達成したようだ。

【動画】「無敵」のHIMARSが初めてロシア軍のミサイルの餌食になった瞬間

ドネツク州東部のニカノリフカ村(現在の戦線から西に約48キロ、占領されたアウディーイウカとバフムートからほぼ等距離にある)の付近で、ウクライナ軍が保有する39基のHIMARSのうちの1基がロシアの弾道ミサイル攻撃で破壊されたように見える動画が、3月6日に公開された。

 

HIMARSは、ロシアの侵略に対するウクライナの頑強かつ巧妙な抵抗の象徴であり、NATOとウクライナの軍事協力の成功の象徴でもある。2022年6月に実戦配備されて以来、ロシア軍はHIMARSを主要な標的として攻撃を続けてきた。

ロシアはすでに多くのHIMARSを破壊したと主張しており、最近もHIMARS2基を榴散弾で攻撃し、成功寸前までいった例があった。だが、実際に破壊されたのは今回が初めてのようだ。

HIMARSが破壊されたことで、ウクライナは不安を抱いている。ロシア軍の司令部や兵站拠点、兵力集中地など価値の高い標的を攻撃するうえでHIMARSが重要な役割を果たしていたことを考えれば、当然といえば当然のことだ。

弾薬不足のほうが深刻

ウクライナ議会の国家安全保障・防衛・情報委員会のロマン・コステンコ事務局長は、なぜHIMARSが破壊されたか、調査を求めている。

「イスカンデル(ロシア軍の短距離弾道ミサイル)のような弾道ミサイルの照準を合わせるには、かなりの時間がかかるはずだ」と彼はウクライナの代表的なネットメディア、ウクライナ・プラウダに語った。

「なぜこのようなことが起きたのか、専門家に調査させる。HIMARSはウクライナ軍陣地の後方から発射している。だから、敵の諜報機関がHIMARSの位置を探知するために動いているはずだ」

今回の損失は注目を浴びたが、ウクライナ軍のもとにはまだ多くの、作戦行動が可能なHIMARSがある。むしろ、ウクライナにとって急を要する問題は、弾薬が足りるかどうかだ。党派的対立によって行き詰っているアメリカ議会のせいで、あらゆる種類のHIMARS用ロケット弾の供給も止まっている。

今回の損失は、ウクライナとアメリカおよびその同盟国にとって警鐘となるだろう。

「HIMARSがやられたということは、戦争はまだ続いているということだ。だから、われわれは警戒しなければならない」と、ウクライナ保安庁の元将校で、現在はウクライナ議会の国家安全保障・防衛・情報委員会の顧問を務めるイヴァン・ストゥパクは本誌に語った。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中