パキスタン「総選挙後の混乱、野党系が最多」は何を意味するか? 経済も治安も危険水域の国の行方
北部の都市ラホールの投票所で投票する元首相のシャリフ(2月8日) NAVESH CHITRAKARーREUTERS
<これから連立政権が発足することになるが、軍の影響力がいっそう強くなるだろう。巨額の対外債務、深刻なインフレ、武装勢力の攻撃......。パキスタンは今、岐路に立たされている>
2月8日の総選挙をめぐる混乱と疑念の末に、パキスタンに弱い連立政権が誕生することになりそうだ。
開票が始まると、当初は野党のパキスタン正義運動(PTI)系の陣営が他陣営に大きなリードを保っていたが、選挙管理委員会が集計作業を一時停止。15時間後に結果発表が再開されると、得票状況は大きく変わっていた。
本稿執筆時点でまだ全ての議席が確定していないが、残り議席の動向に関係なく、PTI系が最大勢力になることは動かない。しかし、選挙管理委員会の集計停止を境に、PTI系のリードが大幅に縮小した。パキスタンの政治に強い影響力を振るってきた軍による不正を疑う声が強まっている。
そもそもPTIは、選挙戦に平等な条件で臨むことを許されなかった。創設者のカーン元首相は昨年8月以降収監されていて、党の活動家や支持者の多くも逮捕された。今回の選挙でも同党の候補者は無所属候補として立候補することを余儀なくされた。
それでも、事前の予想をはね返してPTI系の候補者が多くの議席を獲得した。有権者は軍の介入にはっきりとノーを突き付けたのである。
もしこうした有権者の強い意志が覆されれば、パキスタンの政治的混乱はさらに続くだろう。これまでの歴史上、5年の任期を全うした首相は1人もいない。
暫定内閣の下で実施された今回の選挙では、PTI系、シャリフ元首相率いるパキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML-N)、そしてパキスタン人民党(PPP)という3大勢力は、いずれも単独では過半数の議席を獲得できなかった。その結果、連立政権が発足することになるが、政権の基盤は弱く、軍の影響力がいっそう強くなりそうだ。
しかし、いまパキスタンが置かれている経済的苦境を脱するには、国民に支持された強力な政府が必要とされる。
まず4月には、IMF(国際通貨基金)の融資プログラムが終了する(現在、IMFの30億ドルの融資により、パキスタンは債務不履行を回避できている)。3月には、新しい融資プログラムに向けた交渉を開始しなくてはならない。5月には、補助金の削減や税負担の増加を盛り込んだ新予算も打ち出す必要がある。
現在、パキスタンは巨額の対外債務を抱えている。総額2600億ドルの債務のうち、1160億ドルを対外債務が占めているのだ。