最新記事
南アジア

周囲を「敵国」に囲まれたパキスタン...頻発する「国境紛争」が、経済危機にとどめを刺すのか

Bordering on a Crisis

2024年2月8日(木)17時23分
マイケル・クーゲルマン(米ウッドロー・ウィルソン国際研究センター南アジア研究所長)
総選挙を控えたパキスタン

総選挙に向けて警備が強化される国内最大の都市カラチ(2月7日) Akhtar Soomro-Reuters

<イラン、アフガニスタンそしてインド......。終わりの見えない隣国との火種が、経済危機からの回復を妨げる>

1月中旬以降、イランとパキスタンの間で越境攻撃が相次いだ。標的は双方とも、相手国がかくまっていると主張する自国の分離独立主義勢力。両国関係は緊張したが、早期の外交努力で沈静化した。

だが、この出来事はパキスタンがイランとの国境地帯に抱える安全保障上の課題を浮き彫りにした。パキスタンはアフガニスタンとの国境でも、テロの脅威に苦慮している。

1月29日にはパキスタン南西部バルチスタン州のマッハで民兵による攻撃があり、同州の分離独立を掲げるバルチスタン解放軍(BLA)が犯行声明を出した。パキスタンはBLAが長年にわたりイランに潜伏していると主張し、18日にはBLAを標的としてイランを攻撃していた。

マッハの事件の2日前には、イラン南東部サラバンでパキスタン人労働者9人が殺された。パキスタンはBLAか同系列の組織の犯行とみている。

タリバン復権以降、アフガニスタンからの攻撃が増加

パキスタンは、北西部のアフガニスタンとの国境地帯でも脅威を抱えている。アフガニスタンで2021年にイスラム主義勢力タリバンが再び権力を掌握して以来、同国に拠点を置くパキスタン・タリバン運動(TTP)によるパキスタン国内への攻撃が増えた。TTPを抑えようとしないタリバンと、その長年の盟友であるパキスタンの間に緊張が高まっている。

皮肉なことだが、敵対し続けてきたインドとの国境地帯は、21年の停戦合意以降、目立って静かになった。だが最近、パキスタン国内で市民2人が殺害された事件について、パキスタン側がインド諜報員による暗殺だと主張しており、緊張が高まっている。

さらにパキスタンは、インドが長年にわたりBLAを支援してきたと訴え(インドは否定)、マッハでの攻撃もインドが関与したとしている。

南アジアでは、ほかにも国境地帯での争いが増えている。インドとブータンは共に、中国と国境をめぐって争っている。ミャンマーの内戦は国境を越えてバングラデシュに影響が波及した。インドは最近、安全保障上の懸念からミャンマーとの国境にフェンスを設置する計画を発表した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中