イスラエルのガザ攻撃に対する「イランの民兵」の報復で米軍兵士が初めて死亡:困難な舵取りを迫られる米国
米国は、55キロ地帯のほかにも、トルコが「分離主義テロリスト」とみなすクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)の支配下にあるユーフラテス川以東の各所に基地を設置している。これもまた、国際社会、そしてシリア政府の承認を得ていない違法な駐留である。
拙稿「シリアにおける米国の軍事介入と部隊駐留の変遷(2011~2021年)」によると、2020年2月時点で米軍基地は27カ所(ハサカ県15カ所、ダイル・ザウル県9カ所、ラッカ県1カ所、ヒムス県2カ所)が確認されている。
今回、イラク・イスラーム抵抗の攻撃を受けたとされる基地は、27カ所のなかには含まれていない。だが、西側メディアが標的なったと伝えた小規模な(前哨)基地、あるいは施設は、常設か、仮設か、常駐か、非常駐かはともかく、ルクバーン・キャンプを含むシリア領内に多く存在する。つまりは、イラク・イスラーム抵抗の声明からは「ルクバーンの基地」の所在は特定できないのである。
ヨルダン政府からの疑義
こうしたなか、ヨルダン政府の発表が、攻撃地点をめぐる米国の主張に疑義を呈することとなった。
ヨルダンのマムラカ・テレビなどによると、ムハンナド・ムバイディーン内閣報道官兼通信大臣は、攻撃を「テロ攻撃」だと非難、米国に対して犠牲者への哀悼の意を示す一方で、ヨルダン軍の死傷者はなかったとしたと明らかにし、シリア国境地帯でのテロと麻薬・武器密輸の脅威に引き続き対応すると表明した。だが、同時に、攻撃がヨルダン領内の米軍基地ではなく、シリアのタンフ国境通行所の基地に対して行われたと述べたのだ。
前掲したイラク・イスラーム抵抗の声明では、ルクバーン、シャッダーディーの米軍基地とイスラエル海上施設とともに、タンフの米軍基地への攻撃への関与が表明されている。ムバイディーン内閣報道官兼通信大臣の発表によると、タンフ国境通行所の基地への攻撃によって米軍兵士に死傷者が出たことになる。
また、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、1月28日の早朝に、タンフ国境通行所の基地に駐留する米軍部隊が、基地を攻撃しようとした「イランの民兵」のドローン1機を撃墜したと発表したが、イラク・イスラーム抵抗が攻撃したとするそれ以外の基地での攻撃については言及していない。
ヨルダンは、昨年末から3度にわたってシリア南部に対して、麻薬や武器などの密輸業者や密輸ルートを狙って爆撃や砲撃を行ってきた。
昨年12月18日に実施された最初の攻撃では、スワイダー県の国境地帯、サルハド市、シュアーブ村の近郊、ダルアー県のマターイヤ村近郊の密輸ルート、密輸業者の潜伏先に爆撃と砲撃が行われ、女性1人と子供2人を含む5人が死亡した。2度目となる1月9日の攻撃では、スワイダー県のウルマーン村、マラフ町近くの農場1ヵ所、シュアーブ村北の1ヵ所、同村南の1ヵ所への爆撃を実施、地元の大物密輸業者1人を含む3人を殺害した。1月18日の3度目の攻撃では、ウルマーン村にある民家2棟を爆撃、女児2人と女性7人を含む10人を殺害した。
一連の攻撃に関して、シリアの外務在外居住者省は1月23日、ヨルダン軍の攻撃を正当化し得ないと非難、両国の関係修復継続の動きに緊張と悪影響を及ぼす行為は慎むべきだと表明した。これに対して、ヨルダンの外務省も同日、シリア側に密輸業者の氏名やその背後にいる勢力、麻薬製造場所などの情報を提供したにもかかわらず、何らの真摯な対応が行われなかったと反論、シリアからの麻薬や武器の密輸がヨルダンの安全保障に脅威を与えていると非難した。
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