イスラエルのガザ攻撃に対する「イランの民兵」の報復で米軍兵士が初めて死亡:困難な舵取りを迫られる米国
攻撃への関与を認めるイラク・イスラーム抵抗
イラク・イスラーム抵抗は1月28日にテレグラムを通じて3つの声明を発表した。このうち午後2時24分に発表した2番目の声明で、ガザ地区に対するイスラエルの攻撃への報復として、シリアのシャッダーディー(ハサカ県)、ルクバーン、タンフ(いずれもヒムス県)の基地、イスラエルの「ズフールーン」(クレイヨット)海上施設をドローンで攻撃したと発表した。
「ルクバーンの基地」はどこにあるのか?
このうち「ルクバーンの基地」が、米軍兵士3人が死亡した基地と思われる。だが、この基地がヨルダン領内にあるのか、シリア領内にあるのかは、定かではない。
イラク・イスラーム抵抗は、今回の攻撃を含めて3回、「ルクバーンの基地」を攻撃したと発表している。しかし、その呼び方は微妙に異なっている。
昨年10月23日の声明では「ルクバーンの米占領国基地」、12月13日の声明では「ルクバーン・キャンプの(米)占領国基地」と書かれている。これに対して、今回の声明では「ルクバーンの基地」となっている。
「ルクバーン」と「ルクバーン・キャンプ」は、単なる標記の揺れなのかもしれない。だが、実は大きな違いがある。なぜなら、「ルクバーン」とは、ヨルダン北東部のシリア・イラク国境に近い砂漠地帯の名称である一方、「ルクバーン・キャンプ」は、ヨルダン領とシリア領を隔てる緩衝地帯のシリア領側に設置されている国内避難民(IDPs)を指すからだ。
つまり、「ルクバーン」はヨルダン領、「ルクバーン・キャンプ」はシリア領なのである。ルクバーン・キャンプは2014年に設置された。
イスラーム国がイラク領内やシリアのヒムス県、ラッカ県、ダイル・ザウル県に勢力を拡大したこの年、シリアから多くの住民がヨルダンに向けて脱出を試みた。だが、この時すでに60万人以上のシリア人を難民として受け入れていたヨルダンは、さらなる難民の受け入れを拒否した。そのため避難民はヨルダン・シリア国境の緩衝地帯に留め置かれることになった。こうしたなか、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)などの支援を受けて、緩衝地帯に設営されたのがこのキャンプだった。
キャンプには、最大時で50,000人が身を寄せるとともに、シリア自由軍(旧革命特殊任務軍)、殉教者アフマド・アブドゥー軍団といった反体制派武装集団(いわゆる自由シリア軍)が拠点を置いた。
米国が主導する有志連合は2016年3月、ルクバーン・キャンプの20キロほど北東に位置するタンフ国境通行所を制圧し(通行所は2015年3月にイスラーム国がシリア政府から奪取していた)、ここに基地を建設した。基地には米軍が200人規模の部隊を、英軍が50人規模の部隊を駐留させるとともに、シリア自由軍や殉教者アフマド・アブドゥー軍団が拠点を設置し、米軍がこれらの組織に対する教練を行った。
シリア政府は同地の奪還を試みた。だが、米軍はタンフ国境通行所から半径55キロの地域が、領空でのロシアとの偶発的衝突を回避するために2015年10月に両国が設置に合意した「非紛争地帯」に含まれると主張、占領を続けた。タンフ国境通行所一帯地域は以降、「55キロ地帯」(55km Zone)と呼ばれるようになった。
なお、米国(有志連合)は2024年9月にイスラーム国を壊滅するとしてシリア領内で軍事行動を開始した。だが、それは、国連安保理決議による承認も、シリア政府を含むシリアのいかなる政治主体の同意も得ることなく行われた違反行為だった。
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