最新記事
シリア

イスラエルのガザ攻撃に対する「イランの民兵」の報復で米軍兵士が初めて死亡:困難な舵取りを迫られる米国

2024年1月29日(月)19時00分
青山弘之(東京外国語大学教授)
ウルマーン村の爆撃跡

ヨルダンは、昨年末から3度にわたってシリア南部に対して爆撃を行ってきた。ウルマーン村の爆撃跡(Facebook(@Suwayda24)、2024年1月18日)

<米軍がシリア国境に近いヨルダン北東部でドローンによる攻撃を受け、兵士3人が死亡する事件が発生。バイデン大統領は、この攻撃がイラン支援の過激派によるものだと断じ、報復を示唆。一方、ヨルダン政府は攻撃が自国内ではなく、シリア領内で行われたと主張し、米国の見解に疑義を投げかけた。この事態は、中東における米国の複雑な外交政策と地域内の緊張の高まりを浮き彫りにしている......>

ジョー・バイデン米大統領は1月28日に声明を出し、シリア国境に近いヨルダン北東部に駐留する米軍部隊が無人航空機(ドローン)の攻撃を受け、米軍兵士3人が死亡、多数が負傷したと発表した。

バイデン大統領は声明のなかで、米国が現在この攻撃についての事実を収集中だとしつつ、攻撃がイランの支援を受けてシリアとイラクで活動する過激な武装グループによって行われたと断じた。また、疑う余地なく、我々は、我々が選んだ方法で、すべての当事者の責任を一気に追及する、と明言した。

米中央軍(CENTCOM)も同日、声明を出し、米軍兵士3人が死亡、25人が負傷したと発表した。しかし、これらの声明の内容は、米国民、さらには国際世論を欺いたものである可能性が否定できない。

西側メディアの報道

攻撃に関する西側諸国のメディアの報道内容は、おおむねバイデン大統領やCENTSOMの発表を踏襲していた。

CNNは、攻撃を受けたのがヨルダン北東部のルクバーン地方にある「タワー22」の名で知られる米軍の前哨基地だと伝えた。APも、米国の匿名当局者らの話として、攻撃が大型のドローン1機によるもので「タワー22」の施設が狙われたと伝えた。ロイター通信も、米軍の話として、「タワー22」が1月28日早朝に攻撃を受けたと伝え、その場所を示した地図を掲載した。

image1.png

タワー22の位置(ロイター通信、2024年1月29日)

昨年10月7日にイスラエル・ハマース衝突が始まって以降、シリアとイラクに設置されている米軍(あるいはイスラーム国に対する「テロとの戦い」を行う有志連合)の基地は、ガザ地区に対するイスラエル軍の攻撃への報復として、ドローンやロケット弾による攻撃を受けてきた。その数は150回以上におよび、これによって米軍兵士70人以上が負傷(ほとんどが外傷性脳損傷)していた。

今回の攻撃は、米軍に死者が出た初めての攻撃であり、またヨルダン領内の基地が標的になったのも、バイデン大統領はCENTCOMの発表、そして西側メディアの報道が事実なのであれば、初めてのことだった。

「イランの民兵」とは?

シリアとイラク領内への米軍基地への攻撃は、「イランの民兵」、あるいは「イランが支援する民兵」と称されるグループによって繰り返されてきた。

「イランの民兵」とは、紛争下のシリアで、シリア軍やロシア軍と共闘する民兵の蔑称である。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、同部隊が支援するレバノンのヒズブッラー、イラクの人民動員隊に所属する諸派、アフガン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などがこれに含まれる。シリア政府側は、シリア内戦の文脈においてこれらの組織を「同盟部隊」と呼ぶが、それらは対イスラエル抵抗闘争の文脈において「抵抗枢軸」と呼ばれる、シリア、ヒズブッラー、そしてイランを中心とする陣営の一翼を担っている。

このなかで、イスラエル・ハマース衝突以降、米軍基地を攻撃したとする声明を連日発表してきたのが、イラク・イスラーム抵抗を名乗る勢力である。この組織は、イラクの人民動員隊に所属するヒズブッラー大隊、ヌジャバー大隊といった急進派によって構成されていると見られる。
米軍基地に対する攻撃のすべてがこのイラク・イスラーム抵抗によって行われているわけではない。だが、今回の米軍基地への攻撃について関与を認める声明を出したのは、このイラク・イスラーム抵抗だった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独ZEW景気期待指数、4月は-14.0 ウクライナ

ビジネス

世界EV販売、3月は29%増 中国と欧州がけん引 

ワールド

中国、対米摩擦下で貿易関係の多角化表明 「壁取り払

ワールド

中国とベトナム、多国間貿易体制への支持を表明 鉱物
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトランプ関税ではなく、習近平の「失策」
  • 3
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができているのは「米国でなく中国」である理由
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 6
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    シャーロット王女と「親友」の絶妙な距離感が話題に.…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 4
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中