「イスラエルの民主主義」が示された「つかの間の勝利」...最高裁の判断とは?
THE COURT SAYS NO
政府の司法改革案に抗議する大規模デモ(2023年3月) AMIR TERKELーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES
<ネタニヤフが強硬した2つの重要法案の1つを「無効」、もう1つを「延期」とした最高裁判所。抗議デモを行ってきた多くのイスラエル人にとっては勝利だが、大きな闘いの一部にしかすぎない理由について>
イスラエルの最高裁判所は1月1日、ベンヤミン・ネタニヤフ首相率いる極右政権が司法改革の一環として推進した2つの重要法案について、1つを無効とし、もう1つは次期総選挙後まで発動を延期するという判断を下した。これは、イスラエルの民主主義勢力にとって歴史的な勝利だ。
1つ目の法案は、政府の「極めて不合理な」決定を阻止する最高裁の権限をなくす内容だ。
もう1つは、明らかに現在汚職で公判中のネタニヤフのために作られたもので、首相が刑事手続きに干渉した場合に司法長官が職務不適格を宣言するのを禁じることを目的に、その宣言がされるのは健康上の理由のみと規定していた。両法案はイスラエルの基本法(憲法に相当)の修正案として、昨年7月に国会で承認された。
今回の判決は、イスラエルの民主主義にとって画期的な出来事だ。最高裁は政府の司法改革を無効にすることで、戦時中は団結し、ネタニヤフによる民主主義規範の侵食を容認せざるを得ないという考え方を否定した。
そして、8対7という僅差の賛成多数で、政府の決定に対する「合理性」の基準を維持し、民主主義国家としてのイスラエルに「深刻かつ前例のない損害」をもたらすとして連立与党を非難した。
さらに、判事15人のうち12人が、最高裁はユダヤ人国家であり民主主義国家であるイスラエルのアイデンティティーを損なう基本法を審査し、無効にする権限を有すると判断。これは、国会で単純多数決で可決されようが、基本法は司法審査から除外されるべきだという政府の主張を否定したことを意味する。
最高裁の決定は、基本法に関する判決に消極的だった従来の姿勢とは根本的に異なる。イスラエルには正式な憲法がなく、基本法が国家の責任を示し、市民権を保護する基本的な法的枠組みになる。
だが政府は、干渉しない最高裁の方針を悪用し、ネタニヤフ個人あるいは政治的利益のために基本法のプロセスを操作しようとしてきた。最高裁はこの慣習に終止符を打とうとしている。
最高裁の判決はまた、司法改革に対する抗議デモを行ってきた何十万人ものイスラエル人にとっても大きな勝利と言える。大規模デモは国の将来に対する社会の分断を浮き彫りにしたが、それも昨年10月7日にイスラム組織ハマスがイスラエル市民を虐殺したことで一時的に影を潜めた。