「パラサイト」出演、スター俳優イ・ソンギュンを殺した韓国社会の不寛容
No Mercy for “Druggies”
情報が漏れるや否や、イをめぐって根拠のない噂と臆測が飛び交った。メディアは警察の情報を垂れ流し、国民は失望を口にした。イを優しいパパの仮面をかぶった偽善者、「薬物犯罪者」と罵った。私生活を暴き、妻子を追い回した。日刊紙もSNSユーザーも寄ってたかってイを糾弾し、全国放送のテレビ局までもが調子を合わせた。
法の原則であるはずの「推定無罪」は踏みにじられた。商店主は店先に貼ってあったイのポスターを剝がし、彼を広告に起用した企業はブランドイメージが傷ついたとして訴訟を検討した。映画会社は出演作の公開を中止すべきかどうか議論した。
イが薬物検査を複数回受けて陰性だったことも、脅迫の被害を受けたことも、世間は気にも留めなかった(イは警察に、知人から渡されたものを、違法薬物の可能性を考えずに摂取したことがあると認めていた。20代の女がこの事件を公表するとイを脅し、口止め料を要求していた)。
世論が死刑を宣告した
イの夜遊びにはいくつか疑問も残るが、薬物検査が陰性だったことを考えると不起訴処分になった可能性が高い。仮に彼が薬物を使っていたとしても、同情と救いの手が差し伸べられるべきだった。
しかし、世間の手はイを殴り付けた。人々は頭の中で裁判を行い、彼に死刑を宣告したのだ。
韓国では違法薬物に対する嫌悪感が強い。薬物乱用者は烙印を押され、追放され、贖罪の機会は与えられない。メディアはイのキャリアも人生も完全に終わったかのような報道を続け、彼をどこまでも追いかけた。社会は彼の暗い未来を予言し、それが現実になったようなものだ。
薬物乱用者や薬物使用の疑いがある人に対する国民の嫌悪感に、政府の政策や司法、医療制度が輪をかけている。政府機関の放送通信委員会は昨年10月、イなど芸能界の薬物使用疑惑を踏まえて、「薬物犯罪者のテレビ出演を禁止する」方針を表明した。
問題の核心は、薬物使用者が社会的・医学的リハビリが必要な患者ではなく、もっぱら犯罪者と見なされることだ。いったん犯罪者のレッテルを貼られたら、速やかに社会から排除され刑務所に送られるべきだとされる。
尹は22年に薬物犯罪の対策強化を指示。840人の専門家から成る薬物撲滅のタスクフォースを創設し、犯罪対策費を2倍以上に増やした。昨年には、前年比2倍を超える2万人以上が検挙された。