最新記事
中東

人質救出を待つ家族の叫び「イスラエル軍はハマスと一緒に自国民も殺すだろう」

AGAINST THE CLOCK

2024年1月12日(金)16時53分
マシュー・トステビン(ジャーナリスト)
家族救出を待つ人々の叫び

イスラエルのテルアビブ市内の掲示板に貼られた人質の写真 CLODAGH KILCOYNEーREUTERS

<ハマス殲滅と人質奪還のどちらを優先すべきか。究極の選択を迫られるネタニヤフに「恥を知れ」「無責任で冷酷」と家族の不満が爆発する>

昨年12月初め、停戦中だったイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が再開されると、シャロン・リフシッツの胸に深い痛みが走った。

彼女の85歳の母親ヨシェベドは、10月7日にハマスがイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けた際に人質として連れ去られたが、停戦中に実現した人質とパレスチナ人囚人の交換によって解放された。

一方、83歳の父親オデッドは今もパレスチナ自治区ガザのどこかで捕らわれており、生死すら分からない。

「愛する人たちがガザでゆっくりと死んでいく。父の居場所はおそらくここから1マイル(1.6キロ)しか離れていない。はるか彼方の別世界ではないのに」と、リフシッツはガザに近接するキブツ(農業共同体)にある両親の家の焼け跡で語った。

「彼らはなぜ戻れないのか。なぜ私たちは『彼らを取り戻すためにあらゆる手を尽くす』と言えないのか」

ガザで拘束されている他の人質の家族と同様、彼女もベンヤミン・ネタニヤフ首相率いる戦時内閣がハマス殲滅に気を取られ、自国民の救出を優先していないと感じている。

12月15日にイスラエル軍が人質3人を誤って射殺したことが公表されると、その懸念はますます強まった。

怒号が飛び交う首相との面会

人質家族の怒りはネタニヤフと並んで、赤十字国際委員会(ICRC)にも向けられている。

ICRCが人質の元を訪れ、適切な処遇を受けられるよう手配する任務を怠っている、というのだ。

人質の中には生後10カ月と4歳の乳幼児もいると伝えられるが、ハマスは要求が通らない限り、人質が生きてガザを出ることはないと警告している。

イスラエルは過去にも人質をめぐるジレンマに直面してきたが、今回ほど大規模に、そして国家の存亡を揺るがす戦争の渦中で選択を迫られるのは初めてのことだ。

リフシッツの両親は、65年間暮らしてきたキブツに武装集団が突入した直後に拘束され連れ去られた。

他の多くの人質と同じく、彼らもパレスチナ人との友好を信じる左派だったと、リフシッツは語る。

父親はガザに友人がおり、高齢になった今も、治療が必要なパレスチナ人を病院に運ぶボランティアをしていた。

このキブツでの犠牲者は少なくとも46人。これは住民の1割以上に当たる。

「ハマスを滅ぼせば人質を取り戻せる、とは思えない。(イスラエル軍は)ハマスと一緒に自国民も殺すだろう」と、リフシッツは言う。

彼女の母親は解放後、ハマス戦闘員が身を潜める「クモの巣」のような地下トンネル内で拘束されていたと語った。

イスラエル軍はそうしたトンネルを空爆や地上作戦で破壊しようとしている。地下トンネルに海水を注入したとの報道もあり、人質の家族は心を痛めている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中