最新記事
日本社会

教員の犯罪のうち「性犯罪」の比率が特に高くなる4つの理由

2024年1月31日(水)11時30分
舞田敏彦(教育社会学者)
学校の教室

わいせつ行為をした教員の職場復帰を厳しくする法律も制定されたが BlurryMe/Shutterstock 

<背景には、抵抗力のない子どもと日常的に接する「接触性」などの要因がある>

子どもに対する教員のわいせつ行為があまりに多いことを受け、2021年6月に「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」が制定された。通称は、わいせつ教員対策法だ。

この法律のポイントは、わいせつ行為をした教員の復帰を厳しくすることだ。教員免許状が失効しても3年経てば再取得できるが、わいせつ行為による免許失効者については、更生が不十分と判断される場合、都道府県教育委員会は免許状の再授与を拒むことができる(第22条)。


また第15条では、わいせつ行為で免許状が失効した者について「免許状の失効又は取上げの事由、その免許状の失効又は取上げの原因となった事実等に関する情報に係るデータベースの整備」を国に義務付けている。当該の教員が、わいせつ行為の事実を隠して再雇用されるのを防ぐためだ。

子どもを守る上で、こうした対策はやむを得ない。教員は(無力な)子どもと常日頃接する職業なので、性犯罪の発生率が高いとも言われる。これを直接立証する手段はないものの、次のような統計がある。2022年中に刑法犯(交通業過除く)で検挙された教員は590人で、うち性犯罪(強制性交、わいせつ)による者は86人。よって教員の犯罪の14.6%が性犯罪ということになる。全職業でみた場合の数値(6.8%)よりもだいぶ高い。

50の職業について同じ値を計算し高い順に並べ、上位10の職業を取り出すと<表1>のようになる。

data240131-chart01.png

教員の14.6%は、数値を計算できる50の職業の中で最も高い。2位は会社等の部課長で、その次は警察官・自衛官といった保安職だ。芸能人・スポーツ選手は5位。奇しくも、性犯罪(疑惑)で世間を騒がせることが多い職業のように思える。

これらに共通する大体の特徴は人と接し、かつ一定の権威を持っている職業であることだ。教員が性犯罪に傾く要因は、おおよそ4つある。まずは「接触性」で、抵抗力のない子どもと常日頃接していることが大きい。その次は「権威性」で、立場上優越している教員に対し生徒は拒絶の意思を表しにくい。3番目は「密室性」。学校には教室をはじめとした密室が多くあり、犯行を駆り立てる行為環境となる。最後は「合理化性」で、不必要に体に触れる行為とて「これもスキンシップ、指導のうち」などと勝手に解釈してしまう。まずは、これらについてしっかりと自覚させることからだ。

これらの要因(条件)が不安定な生活態度と結び付くと、よからぬことが起きやすくなる。とくに長時間労働が常態化している教員はそうで、犯行の動機として「過重労働によるストレスがあった」というものが少なくない。教員の働き方改革が進まないことで被害を受けるのは、子どもたちでもある。

<資料:警察庁『犯罪統計書』(2022年)

展覧会
京都国立博物館 特別展「日本、美のるつぼ」 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中