最新記事
環境問題

世界最先端「廃棄物発電(WTE)」完成も、「ゴミを作らない」以外に結局は解決策がない

UNMAKING WASTE

2023年12月20日(水)13時50分
サラ・ニューマン(米シカゴ大学助教)
チリのアタカマ砂漠

不法投棄で「衣類の墓場」と化したチリのアタカマ砂漠 LUCAS AGUAYO ARAOSーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

<年間200万トンの都市廃棄物を焼却することで電気を作り、12万世帯分の電力を供給する最先端施設が発表されたが、根本的な解決策ではない>

ドバイで開催された国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)の一環として、アラブ首長国連邦(UAE)は完成したばかりの廃棄物発電(WTE)施設を披露した。

世界最大の処理能力を持つ同施設は年間200万トンの都市廃棄物を焼却することで電気を作り、12万世帯分の電力を供給するという。

矛盾するようだが最先端のこの施設、廃棄物処理の在り方としては新しくない。

最近完成したか現在建設中か、または建設予定のWTE施設は世界に数千カ所ある。既に2600以上の施設が稼働し、中国だけで400を超える。

WTE産業は急成長が見込まれ、2021年に277億ドルだった売り上げは29年には約452億ドルまで伸びると予想される。成長の行方はパリ協定の目標達成に向けた各国の努力に負うところが大きい。

気候変動との闘いには朗報だ。WTE施設は世界で年間4億トン以上のごみを処理している。

再利用、堆肥化、リサイクルを行った後に残されるごみは年間20億トンだから、その20%程度を処理している計算だ。

ごみを埋め立てれば、温室効果が二酸化炭素の28倍というメタンガスが発生する。一方WTE施設に送ればガスの排出は減り、土地は保護され、電気も作れる。

だがWTEは革命的イノベーションというより昔ながらの発想、ごみを作らないようにするのではなく作ってしまったごみをなくそうとする試みだ。

近著『Unmaking Waste(ごみを作らない)』で、私は過剰な消費を有益な力に変えようとするごみ処理の歴史をたどった。

WTEの中核技術である焼却は、衛生的で効率がよく収益性の高いごみ処理方法としてもてはやされてきた。

19世紀後半には役人や衛生関係の技師が、火は廃棄物を破壊、殺菌し、内燃機関の動力源となる蒸気を発生させるとたたえた。

だが焼却の潜在能力がフルに発揮されることはなかった。一般に水分を多く含む有機物は高温で燃やさなければならないが、生ごみを燃やしてもさほど温度が上がらない。

展覧会
京都国立博物館 特別展「日本、美のるつぼ」 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中