最新記事
環境問題

世界最先端「廃棄物発電(WTE)」完成も、「ゴミを作らない」以外に結局は解決策がない

UNMAKING WASTE

2023年12月20日(水)13時50分
サラ・ニューマン(米シカゴ大学助教)

そこで石炭などの燃料で火力を補うことになりコストが上昇した。低温で処理すればごみは生焼けになり、煙やガスの発生が増加した。

動力を得るにも、ごみを燃やしてエネルギーに変換するより単に木や石炭を燃やしたほうが安上がりだった。

そういうわけで、19世紀末から20世紀初頭に建設された焼却炉の60%が、1910年までに廃炉になるか解体された。

その後チリのアタカマ砂漠で捨てられた衣類が山となり、太平洋でプラスチックごみが巨大な渦を作るなどごみ問題の危機的状況が顕著になるなか、WTEは投棄に代わる持続可能な選択肢としてたびたび持ち上げられた。

だがWTEは決定的な解決策ではなく、医療に例えるなら対症療法だ。

スイスを例に取ろう。スイスは埋め立てを廃止したが、人口1人当たりの固形ごみ、特にリサイクルせずに焼却するプラスチックごみは増え続けている。

ごみの処理は基本的に数百年前から変わっていない。私たちは捨てることを前提としてものを生産することに、膨大な知識と時間と資金をつぎ込んできた。

「ごみ」の概念を完全になくす取り組みにそうしたリソースを振り向けたなら、これからの100年はどんなに変わるだろう。

既に私たちは捨てられるはずの牛乳から衣類を、きのこの菌糸から家具を、海藻やスイカの皮からプラスチックを作っている。

解決策を求めるなら、問題を生み出したのと同じ発想に頼っていてはいけない。廃棄物の処理方法だけでなく、もの作りの発想を根本から変えなければならない。

©Project Syndicate


231226P16_P16_01.jpgサラ・ニューマン
SARAH NEWMAN
考古人類学者。シカゴ大学助教。人類学や考古学、歴史学、美術史学の手法を用いて廃棄物と再利用の歴史、景観の変化、人間と動物の関係などを研究している。主なフィールドはラテンアメリカの古代文明。

企業経営
ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パートナーコ創設者が見出した「真の成功」の法則
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、米陸軍長官と和平案を協議 「共に取

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン

ワールド

トランプ氏、チェイニー元副大統領の追悼式に招待され

ビジネス

クックFRB理事、資産価格急落リスクを指摘 連鎖悪
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中