もはや「わざと戦争を長引かせて」政治生命の維持に固執するしかない、ネタニヤフとその代償
BIBI’S SURVIVAL PLAN
野党から緊急政府に入ったガンツ(右)のほうがネタニヤフ(左)よりも支持率が上(2021年総選挙でのガンツの広告) AMIR LEVY/GETTY IMAGES
<ハマスの奇襲を許した責任を問われて支持はガタ落ちし、イスラエル首相は自身の政治生命を維持することに全力を傾けるしかなくなっている>
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の政治生命は危機にさらされている──そう考える理由は、いくらでもある。
イスラム組織ハマスによる奇襲攻撃を許して少なくとも1200人の市民が惨殺されるという、イスラエル史上最悪の安全保障上の失態を犯した。
その報復としてパレスチナ自治区ガザで戦争を始めたが、非現実的な目標を掲げて事態は泥沼化している。世論調査での支持率は底を打ち、おまけに現在も3つの汚職の罪で裁判中の身だ。
ところが10月7日のハマス襲撃から日を重ねるごとに、ネタニヤフは戦争終結後も権力の座にとどまる決意を固くしているようだ。周囲の状況さえも彼に有利になりつつあるようにみえる。
彼の続投戦略は3つの要素から成るようだ。ハマスの襲撃を許した安全保障上の責任をほかになすり付ける、現在の連立政権を何としても維持する、そして具体的な成果を上げられるまで時間を稼ぐ......。
「彼は時間が国を癒やしてくれると当てにしている」と、ネタニヤフの元側近で政治評論家のアビブ・ブシンスキーは言う。
ハマスは11月下旬、戦闘の休止とイスラエルで収監されていたパレスチナ人約150人の釈放と引き換えに、イスラエル人の人質約50人を解放した。この取引はイスラエルで広く支持されたが、それでも多くの国民はガザに人質が多数残っていることに心を痛め、不満を募らせている。
ネタニヤフの政治キャリアの中でも最悪の危機が始まったのは10月7日。ハマスがイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けて大勢の市民を惨殺し、約240人を拉致した。イスラエル史上、最も大きな犠牲が出た事件だ。
イスラエル軍のヘルツィ・ハレビ参謀総長や治安機関シンベトのロネン・バー長官は失態の責任を認めたが、ネタニヤフは頑として責任を認めず、国民の間に怒りの声が高まっている。
独立機関による調査を行って責任者を処分するよう求める当局者やアナリストも多いが、ネタニヤフは「今はハマスに勝利することに全力を注ぐべき時だ」と言い張る。
評論家のヨシ・アルフェルは、ネタニヤフが率いる与党リクードの中から彼を批判する声が上がっていないことに注目すべきだと指摘する。「ネタニヤフは駆け引きに忙しく、しかもうまい」と、アルフェルは言う。
彼に言わせれば、ネタニヤフはその抜け目のなさによってイスラエル史上最長の在任期間を誇る首相となった。今年7月には大規模な抗議デモをものともせず、裁判所の力を弱める司法改革を断行した。
「現時点では私たちに見えない多くの力が働いている。彼の政治生命が終わりかどうかは分からない」と、アルフェルは指摘する。