最新記事
ウクライナ情勢

「支援疲れ」が広がるなかで「プーチンの考え」を完全に読み違える西側諸国

The West’s False Choice in Ukraine

2023年12月5日(火)12時30分
ノーナ・ミヘリーゼ(伊シンクタンク・国際問題研究所上級研究員)、ナタリー・トッチ(同研究所所長)

「粘り勝ち」を目指す敵

プーチンがウクライナとロシアの一体性を強調した悪名高い論文を発表したのは、まさにこの時期だ。問題の論文はイデオロギー的にも戦争正当化のロジックとしても、ウクライナ侵攻の序章となった。

いま停戦に応じれば、プーチンはたなざらしの諸問題に加え、西側の制裁と大規模な侵攻がもたらした新たな問題にも対処しなければならない。良いことは1つもないのだ。

西側に突き付けられた困難な選択は「戦争か妥協か」ではない。「敗北か勝利か」だ。

西側が今のレベルの支援を続けるか、停戦交渉を促しつつ支援を減らせば、敗北の確率が高まる。プーチンが当てにしているのは、まさにそれだ。

彼の勝ち筋の根幹を成すのは、西側(それに付随してウクライナ)よりもロシアのほうが粘り強く消耗戦を続けられるという読みにほかならない。妥協に望みを託す西側のあやふやな姿勢と違って、プーチンの戦略には明確なロジックがあるのだ。

西側は今こそ問うべきだ。ウクライナの勝利を可能にするために支援を大幅に増やすコストと、現状の支援を続けるか支援を減らすことでウクライナの敗北を招くコスト。そのどちらが大きいか。

敗北すれば、どうなるか。勝利したロシアはこれまでに奪った5地域を占領し、それを通じてウクライナ政府を影響下もしくは支配下に置くが、それだけでは満足しないだろう。

この戦争でロシアも軍事的、経済的に打撃を受けたから、ポーランドやバルト3国に即座に手を出す余裕はないかもしれないが、モルドバの存続は危うくなる。しかも、自信を付けたロシアが軍備を立て直せば、どうなるか。分別ある欧州諸国は、そして分別ある米政権はそんな危ない賭けには乗らないはずだ。

もちろんウクライナの勝利もコストを伴う。支援を拡大しテコ入れを続ける西側の経済的な負担は膨大なものとなる。中東でも戦闘が起きている今はなおさらだ。それでもウクライナの敗北がもたらす実存的危機に比べれば、負担は安いものではないか。

From Foreign Policy Magazine

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:アフリカのコロナ犠牲者17万人超、予想を

ワールド

米上院、つなぎ予算案可決 政府機関閉鎖ぎりぎりで回

ワールド

プーチン氏「クルスク州のウクライナ兵の命を保証」、

ビジネス

米国株式市場=急反発、割安銘柄に買い 今週は関税政
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の「トリウム」埋蔵量が最も多い国は?
  • 4
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 5
    中国中部で5000年前の「初期の君主」の墓を発見...先…
  • 6
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴…
  • 7
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「天然ガス」の産出量が多い国は…
  • 9
    「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新…
  • 10
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 5
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 6
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 7
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 8
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 9
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 10
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中