「支援疲れ」が広がるなかで「プーチンの考え」を完全に読み違える西側諸国
The West’s False Choice in Ukraine
領土割譲で和平実現?
西側の一部には選択肢は2つしかないとの見方がある。1つは延々と戦争を続けること。その場合、ロシア有利に傾くリスクがある。もう1つは、ウクライナの領土の一部をロシアに与え、戦争を終わらせることだ。
しかしウクライナにとっての現実、そして何よりロシアにとっての現実を見ると、2つ目の選択肢はあり得ない。
ウクライナ人にすれば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナの一部地域を分捕るだけで満足するとはとても思えない。
プーチンはウクライナの国家および民族、歴史、文化的アイデンティティーを地上から消し去らずにはおかないと彼らはみている。「領土を割譲して和平を実現」という妥協策はウクライナ人にはあり得ない。
それに対して西側の停戦交渉支持派は、ウクライナが交渉を拒んだところで、西側の援助がなければ戦争を続けられないと反論するだろう。だが彼らはプーチンの考えを読み違えている。
プーチンは完全な勝利は望めないとみて、これまでに奪った地域を確保するだけで満足するだろうと高をくくっているのだ。
この見方は、プーチンの権力基盤を支える上でこの戦争が帯び始めた戦略的役割を見落としている。注目すべきは、プーチンの言説がこの2年ほどで変わってきたことだ。
ロシアのプロパガンダでは、当初ウクライナ侵攻はウクライナの「ネオナチ」の攻撃を防ぐための作戦とされていた。だが今では西側全体の攻撃から祖国を守る「愛国の戦い」となっている。こうなると、妥協による停戦はあり得ない。
プーチンが権力維持のために大規模な戦争を必要とするようになったのは2018年から20年にかけて。14年のクリミア併合で一気に高まった支持率が国内に山積する問題でジリ貧になった時期だ。
18年には年金改革に反対する声が高まり、19、20年にもモスクワとハバロフスク地方に反政府デモが広がった。
国民の不満に追い打ちをかけるようにコロナ禍が発生。その経済的影響に加え、反体制派の指導者アレクセイ・ナワリヌイが毒を盛られ収監されたことや、「外国の代理人」の活動を規制する法律で市民の自由が制限されたことで人々の怒りは沸騰寸前にまで達した。