「歩く肺炎」の恐怖、耐性菌大国に忍び寄る子供たちのマイコプラズマ肺炎危機
Another Deadly Outbreak?
北京の小児病院前で不安そうな表情で帰路に就く人々(11月27日) TINGSHU WANGーREUTERS
<初夏から感染拡大が止まらない。アメリカの10倍という抗生物質漬けの中国社会がもたらす薬剤耐性菌による肺炎流行に、新型コロナの重複感染リスクが加わった>
北京をはじめとする中国の大都市の病院は今、肺炎やそれと似た症状を示す子供であふれ返っている。
これについて中国政府は、新たな病原体は見つかっておらず、季節性の風邪が例年より増えているにすぎないとしている。
そしてWHO(世界保健機関)は、新型コロナウイルス感染症のときの苦い経験を忘れたかのように、中国の説明をうのみにしている
中国の説明が全て嘘だと言うつもりはない。今回の肺炎が、新しい病原体によるものではないらしいこと(あるいはそれを隠しているのではないらしいこと)は、確かに一定の安堵をもたらしてくれる。
だが、中国ではもっと大きな脅威が拡大している恐れがある。一般的な(しかし致命的になり得る)病原菌が、抗生物質(抗菌薬)の効かない細菌に変化する事態を放置している可能性があるのだ。
SARS(重症急性呼吸器症候群)や新型コロナの発生初期に、中国政府が情報を隠蔽したことが、パンデミックの大きな一因になったことを考えると、今回も中国政府が情報を隠蔽しているのではないかと疑いたくなるのは無理もない。
4年前の新型コロナの発生初期、中国政府は新たな病原体の可能性をWHOに報告せず、報告後も空気感染は起きていないと主張した。
その嘘を貫くために、懸念を表明した医師を処分し、現場の医師たちに外国の専門家との情報交換を禁止した。
子供に効く抗生剤がない
統計の信憑性も乏しい。
中国政府は依然として新型コロナによる死者は約12万人としているが、独立した調査では拡大初期だけで200万人を超えたとの見方もある。そして今、中国の医師たちは再び箝口令を敷かれている。
このため何が起きているのか厳密には分からないが、入手できる情報から一定の推測はできる。
子供の入院が急増しているのは、マイコプラズマ肺炎のためだ。
その病原菌は1938年に発見されたが、細胞壁がなく、小さかったため、長い間ウイルスだと考えられていた(細菌は自己複製能力がある微生物だが、ウイルスにはこうした生命活動がなく、細胞を宿主とするため細菌より小さい)。
やがてマイコプラズマ肺炎菌は非定型細菌であることが明らかになったが、珍しい特徴のため、ほとんどの抗菌薬(細胞壁の合成を邪魔することで効果を発揮する)が効かない。
70年代のワクチン開発の試みは失敗に終わったが、致死率が低いこともあり、新たな開発の取り組みはないまま現在に至っている。