最新記事
南シナ海

「怪しいタイミング」で2度もフィリピン船に衝突した中国船の「怪」...その強気な「火遊び」に黙っていられないのは誰か?

Contested Shoal Clash

2023年10月31日(火)21時10分
セバスチャン・ストランジオ(ディプロマット誌東南アジア担当エディター)

怪しすぎるタイミング

中国側は声明の中で、衝突の原因をつくったのはフィリピン船だと述べた。最初の補給船との衝突は、フィリピン船が中国海警局の船の進路を妨害したため、中国船の船首がフィリピン船の側面に衝突したと主張。

2件目の衝突は、フィリピン沿岸警備隊の船が中国海上民兵の船のすぐ近くで意図的に方向転換したために起きたとした。

中国側はウェブサイトに発表した声明で「フィリピン側の行動は海上での衝突回避に関する国際ルールに大きく違反しており、わが国の船舶の安全を脅かす」と批判。その上で、2件の衝突を海警局の船とドローンから撮影したとする映像を公開した。

だが責任がどちらにあるかは、この2件の事件の本質ではない。そもそもセカンド・トーマス礁は、フィリピンの排他的経済水域内に位置している。

中国の領有権主張については、2016年にオランダ・ハーグの仲裁裁判所が「国際法に照らして無効」との判決を下した。

つまりフィリピン政府には、この海域に駐留する部隊への補給活動を行う当然の権利がある。中国の船はこの合法的な主権の行使を妨害したのだから、衝突の最終的な責任は中国側にあると言っていい。

むしろ注目すべきなのは「タイミング」のほうだ。ベトナムのある識者が指摘したとおり、中国側が事件について最初に声明を出したのは午前6時11分。フィリピン側が事件を把握したとしている時間から、わずか7分後だった。

異例なほど迅速に声明が発表されたことを考えると、今回の事例は単なる事故ではないかもしれないと、先の識者は言う。

「(中国側が)フィリピンの補給活動を妨害するために、事前に強引な行動を計画していたのではないか。状況をエスカレートさせようという意図が感じられる」

中国側の意図を断定することは難しい。だが明らかなのは、中国がこの数カ月、南シナ海でフィリピン側の支配を弱めようとする組織的な行動を繰り返してきたことだ。

こうした流れは、重大な事故に発展する危険をはらんでいるだけではない。アメリカがフィリピンの防衛協力国であることを考えれば、より幅広い紛争に発展する可能性も秘めている。

From thediplomat.com

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中