中東情勢、再び緊迫の時代へ......ハマース、イスラエル、シリアの軍事対立が示すもの
世界中の民間航空機の動きをフォローしているフライトレーダー24によると、午前9時18分にイランの首都テヘランの国際空港を離陸したマーハーン航空の航空機1機がシリア領空に一端入った後、午後11時頃に旋回し、イランに引き返したことが確認できる。だが、シリア人権監視団は、爆撃が実施される以前の数時間に、両国際空港に「イランの民兵」の軍事関連の物資を積んだ貨物機が着陸したという事実は確認できなかったと発表した。
シリア人権監視団の発表が事実であれば、今回のイスラエル軍の爆撃は、シリア領内からの砲撃への単なる報復でもなければ、武器供与や製造を物理的に阻止することが目的でもなく、イランのホセイン・エミール・アブドゥッラフヤーン外務大臣が10月13日にシリアとレバノンを訪問するのに先立って、「抵抗枢軸」を自称するイラン、ヒズブッラー、そしてシリア政府をけん制し、「アクサーの大洪水」への物的支援を躊躇させることが狙いだったと見ることができる。
シリア内戦と地域紛争のエスカレーション
シリア政府は、前述した国防省の声明のなかで、今回の爆撃を、イスラエルがガザ地区で行っている犯罪と、パレスチナの抵抗運動によって被った甚大な損害から注意を背けようとする必死の試みだと位置づけている。また、シリア軍が北部で戦っている過激派テロ組織を支援するために続けている手法だと非難、シリア軍は、イスラエル政体の武装勢力となりさがっているテロ組織を追跡、打撃し続け、国から根絶すると宣言している。
シリアでは、10月5日にヒムス軍事大学(ヒムス県)の卒業式を狙って行われた無人航空機(ドローン)によるテロ攻撃で、民間人を含む300人あまりが死傷する事件が発生して以降、シリア軍とロシア軍が、シリアのアル=カーイダとして知られる国際テロ組織のシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が実効支配するイドリブ県中北部などシリア北西部への爆撃や砲撃を強めている。
このテロは、中国新疆ウィグル自治区出身者からなるアル=カーイダ系のトルキスタン・イスラーム党がよる犯行と見られているが、シリア軍とロシア軍の攻勢を受けて、シャーム解放機構もドローンを投入した攻撃を激化させている。
イスラエル軍がダマスカス、アレッポ両国際空港を爆撃した10月12日にも、シャーム解放機構が保有すると見られるドローンがアレッポ市に飛来、シリア軍の防空部隊がこれを迎撃している。イスラエルは「アクサーの大洪水」作戦を行うハマースをイスラーム国と同一視し、その根絶を主唱している。だが、シリアでは、イスラエルとアル=カーイダが奇妙なシンクロを見せている。
地域戦争への危険
シリアでは、このほかにも10月1日にトルコの首都アンカラの内務省施設前で発生した自爆テロのクルディスタン労働者党(PKK)につながりのある勢力による犯行だと断じたトルコが、10月4日から、PKKの系譜を汲む民主統一党(PYD)が勢力下に置くシリア北東部への大規模な爆撃や砲撃を続けて、石油関連施設などのインフラ施設が標的となっている。
トルコ軍の攻撃は、シリア軍の陣地にも及んでいるほか、10月5日には、シリア北東部に違法に駐留を続けている米軍が接近したトルコ軍のドローン(Anka-S)を撃墜するという事案も発生している。
「アクサーの大洪水」作戦に「抵抗枢軸」がどの程度本格的に介入するかは不透明だ。だが、シリア国防省が両国際空港に対するイスラエル軍の爆撃に対する報復先として、反体制派の掃討を示唆していることからも明らかな通り、イスラエルと「抵抗枢軸」の挑発合戦が激化すれば、紛争はイスラエルとハマースを含むパレスチナ諸派や「抵抗枢軸」の戦闘に限られず、シリア政府、アル=カーイダ系組織が主導する反体制派、クルド民族主義勢力、そしてこれらを後援するロシア、イラン、トルコ、米国を巻き込んだ地域戦争、あるいは世界大戦に発展する危険をはらんでいる。