最新記事
インドネシア経済

今さら「従属理論」を持ち出すインドネシアの野心とは?...「グローバルノース」への対抗策「輸出制限」がとても危険な理由

BREAKING OUT

2023年10月10日(火)09時25分
ファジャル・ヒダヤット(トレードオフ・インドネシア業務執行社員)

NW_IDN_02-20231010.jpg

)インドネシアで稼働する最新鋭のニッケル精錬工場 DIMAS ARDIANーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

二分された世界からの脱却

確かに、戦後の1950~60年代の中南米諸国には「周縁」対「中心」の二分法が当てはまった。しかし80年代になると、韓国や台湾、香港やシンガポールなどアジアの一部諸国・地域がこの二分法の構図を打ち破り、自らの社会の工業化に成功した。

こうした国や地域は天然資源に恵まれていないが、代わりに熟練労働者を育て、起業家精神を発揮することで発展の道を切り開いた。

その後に来たグローバル化の波によって、ますます従属理論の影は薄くなった。周縁部の国々も外国の資本や技術にアクセスできるようになり、グローバルなバリューチェーン(価値連鎖)に組み込まれた。こうなると従属の悪循環から抜け出し、自立する道も開ける。

それでも「北」と「南」の経済的格差は残っており、先進国と途上国の間には独特のダイナミズムがある。この点の理解には今も従属理論が有効かもしれない。とりわけインドネシアのような資源大国の場合はそうだ。

天然資源に恵まれた途上国は、付加価値の低い1次産品をせっせと輸出するが、利益率が低いので資本を蓄積できず、工業化に投資できない。だからいつになっても開発が進まず、従属から脱却できない。

インドネシアは過去70年間、鉱物など付加価値の低い1次産品の輸出に大きく依存してきた。だが1次産品はグローバル市場での価格変動が激しく、インドネシア経済はなかなか成長軌道に乗れない。

だからこそジョコは広島サミットで従属理論を持ち出し、自国をグローバルサウスの代表と位置付け、全ての国に経済発展の権利があると強調し、天然資源に付加価値を付ける工業化の必要性を訴えた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中