最新記事
ウクライナ情勢

「膠着状態」に入ったウクライナ戦争の不都合な真実...西側の支援はそろそろ限界か?

HOW PEACE TALKS CAN BEGIN

2023年10月11日(水)12時30分
亀山陽司(著述家、元ロシア駐在外交官)

231010P48_UJS_03.jpg

9月の国連総会で国際社会に対ロシアでの団結を訴えたゼレンスキー BRENDAN MCDERMIDーREUTERS

現在進行形のウクライナの反転攻勢の成否については、人によって評価が大きく異なっており、確かなことは不明だが、ウクライナ側が思ったような結果を出せていないことは確かである。また、「資源」の観点からもロシア側が優勢であることも、基本的な共通認識となっているだろう。もちろん、ウクライナに対して欧米が、人的資源を含め、これまで以上の大規模支援を投入できるというなら話は変わってくるが、来年の米大統領選次第では、支援は今後縮小局面に入る可能性もある。

では、ロシア側は今後停戦の機運が高まったときにどのような条件で何を目標として行動するだろうか。まず指摘すべきは、ゼレンスキーとプーチンは互いに並び立たないということ。ゼレンスキーはプーチンとの交渉自体を拒否しており、プーチンはゼレンスキーとの最初の和平交渉の失敗以来、交渉は時間稼ぎとして信を置いていない。つまり、プーチンがいなくなるか、ゼレンスキーがいなくなるかだ。

どちらの可能性がより高いかは、比較的容易に想像できる。ゼレンスキーの支持基盤はプーチンに比べればはるかに脆弱だ。ウクライナでは次の大統領選挙が来年の3月に予定されているが、予定どおりに実施されるかは不明だ。ゼレンスキーは選挙資金の不足を理由に実施の有無を明確にしていない。

もし、公正な選挙が行われれば、落選する可能性も十分あるだろう。ウクライナ国民がゼレンスキーを選んだのは、そもそも彼がロシアと交渉して、14年以来のドンバス紛争を和平に持ち込むことを公約に掲げていたからである。6月の世論調査ではウクライナ国民の大半は領土面での譲歩を支持していないようだが、だからと言ってロシアに勝利するまで戦争を継続するというゼレンスキーが再選されるとは限らない。国民は現実的な見方をしているものだ。

選挙の結果、ゼレンスキーが去るというシナリオがなくても、ロシア側がゼレンスキー政権と交渉を行う可能性は低いだろう。ゼレンスキーを追い落とすために、どこかのタイミングでウクライナへの攻撃を強化することもあり得る。ロシアは、ゼレンスキー政権が崩壊するか、合法的に交代するか、ウクライナに新たな政権が誕生するまで待つだろう。

ウクライナ支援継続は得策か

というのも、ロシア側の認識では、ゼレンスキーは米英の「傀儡」である。ラブロフは、米英を「人形遣い」と呼んでいる。すなわち、ロシア側の大きな戦略目標の1つは、ロシアの安全保障のためにウクライナから米英の影響力を排除することにある。このことは、ウクライナのNATO非加盟、中立化にとって必要不可欠な条件となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ輸出、今年は1─2%増へ 予想据え置き=業界団

ビジネス

財新・中国サービスPMI、8月は51.6に低下 雇

ビジネス

林官房長官「冷静に判断すること重要」、株価下落で

ワールド

アンゴラ、中国製品の輸入増には資金提供の拡大が必要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本政治が変わる日
特集:日本政治が変わる日
2024年9月10日号(9/ 3発売)

派閥が「溶解」し、候補者乱立の自民党総裁選。日本政治は大きな転換点を迎えている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つの共通点
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声! でも終わったあとは「逃げられてる?」
  • 4
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 5
    世界最低レベルの出生率に悩む韓国...フィリピンから…
  • 6
    死亡リスクが低下する食事「ペスカタリアン」とは?.…
  • 7
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 8
    ゼレンスキーのクルスク侵攻は「プーチンの思うつぼ…
  • 9
    無数のハムスターが飛行機内で「大脱走」...ハムパニ…
  • 10
    中国「半導体の輸出規制強化すれば、報復する」と日…
  • 1
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 2
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 3
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクドナルド「ハッピーセット」おもちゃが再び注目の的に
  • 4
    「ローカリズムをグローバルにという点で、Number_i…
  • 5
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つ…
  • 6
    Number_iの3人は「めっちゃバランスがいい」──デビュ…
  • 7
    無数のハムスターが飛行機内で「大脱走」...ハムパニ…
  • 8
    小池都知事は「震災時の朝鮮人虐殺」を認める「メッ…
  • 9
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじ…
  • 10
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中