最新記事
ウクライナ情勢

「膠着状態」に入ったウクライナ戦争の不都合な真実...西側の支援はそろそろ限界か?

HOW PEACE TALKS CAN BEGIN

2023年10月11日(水)12時30分
亀山陽司(著述家、元ロシア駐在外交官)

231010P48_UJS_04.jpg

プーチンが交渉に応じる気配はない MAXIM BLINOVーPOOLーSPUTNIKーREUTERS

では、ロシア側はこうした情勢をどのようにみているのだろうか。ブリンケンの会見の2日後のプーチンの発言を見てみたい。これは、ウラジオストクで行われた極東経済フォーラム全体会合でのものである。プーチンは、ウクライナに交渉の用意があるというなら、第1歩としてウクライナ政府が定めたプーチン政権との和平交渉を禁じる法令を撤回してはどうかと切り返している。実際、ゼレンスキーはプーチンとの交渉を拒否することを公にしている。

さらに、プーチンはウクライナとの交渉の可能性について、「ウクライナは、全ての資源(人的資源、兵器、弾薬等)が尽きてから停戦し、交渉を開始することで、交渉を続けている間に資源の回復を図るという戦術の可能性もある」との趣旨の発言をした。

また、その3日後の9月15日にロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が、ウクライナ情勢について演説し、現在「交渉」についていろいろ言われているものは西側の陰謀だと断じた。そして、ウクライナ侵攻から間もない2022年3月に行われた和平交渉で、ウクライナのNATO加盟とは別の形での安全保障について事実上合意に至ったが、西側勢力から署名しないよう圧力がかかり、失敗したと批判している。

「両雄」は並び立たない

過去の交渉の失敗の経緯から、プーチンもラブロフも、たとえ交渉してもそれは相手側の時間稼ぎにすぎないと考えている。残念ながら、ロシアは現在、前向きに交渉に応じることはないと言わざるを得ない。

ロシアは、最初の和平交渉が西側の圧力によって失敗した後、反転攻勢を受けて大きく前線を後退させたため、予備役の部分動員を行わざるを得なくなった経緯がある。さらに、長引く戦闘に対処するため、軍事部門に投資を行い、総動員体制に準ずる国内体制まで整備した。さらにイランや北朝鮮との軍事協力にも動いている。ロシアはもう覚悟を決めているのである。ウクライナの武器弾薬要求は、NATOの供給能力を上回っていると認めているNATOとは対照的だ。つまり、部分動員令を発した昨年秋の時点で、ロシアは大きな転換点を迎えていたのだ。果たしてその事実を西側諸国は認識できているのだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週ぶり増加=ベーカー

ワールド

ベネズエラ、米国人ら6人拘束 政府転覆計画に関与と

ワールド

G7外相、イランの弾道ミサイル輸出非難 ロシア支援

ビジネス

中国8月鉱工業生産・小売売上高伸び鈍化、刺激策が急
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウィリアムとヘンリーの間に「信頼はない」...近い将来の「和解は考えられない」と伝記作家が断言
  • 2
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライナ軍MANPADSの餌食になる瞬間の映像を公開
  • 3
    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺到...男性なら「笑い」になる、反応の違いは差別か?
  • 4
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 5
    広報戦略ミス?...霞んでしまったメーガン妃とヘンリ…
  • 6
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 7
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座…
  • 8
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 9
    「残飯漁ってる」実家を出たマドンナ息子が訴える「…
  • 10
    「とても健康で幸せそう」茶色いシミや黄ばみが酷評…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 4
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 5
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 6
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 7
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 8
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 9
    キャサリン妃、化学療法終了も「まだ完全復帰はない…
  • 10
    33店舗が閉店、100店舗を割るヨーカドーの真相...い…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 6
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 7
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 8
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中