最新記事
ウクライナ情勢

「膠着状態」に入ったウクライナ戦争の不都合な真実...西側の支援はそろそろ限界か?

HOW PEACE TALKS CAN BEGIN

2023年10月11日(水)12時30分
亀山陽司(著述家、元ロシア駐在外交官)

231010P48_UJS_06.jpg

西側供与の戦車で戦闘訓練をする合間に休息するウクライナ兵士たち ROMAN CHOPーGLOBAL IMAGES UKRAINE /GETTY IMAGES

仮に和平交渉が成功したとしても、英米がバックに付いたウクライナ政権が残る限り、NATO加盟や軍備増強などの動きが再開される可能性は残り、その場合には、ロシアは躊躇なく侵攻を繰り返すことだろう。

歴史を通じて、ウクライナはロシアと欧州の間の緩衝地帯であったが、今や、双方にとって危険な火薬庫と化した。それは、停戦しても変わることはない。なぜなら、アグレッシブなウクライナと、ウクライナのNATO接近を決して許さないロシアという構図に変わりがないからだ。

欧州にとってウクライナという火薬庫を維持してまで、ウクライナのNATO加盟が必要なのだろうか。親ロ的なウクライナの時代に、東欧諸国が今以上に大きな脅威にさらされていたという事実はない。むしろ、ウクライナがNATOに加盟したほうが、安全保障上の問題がはるかに大きくなることは、全てのNATO加盟国が理解しているはずだ。そもそも、NATOは安全保障組織であって、自由民主主義を拡散するための政治組織ではない。安全保障を脅かすような拡大は本末転倒である。すなわち、ウクライナのNATO非加盟という条件で交渉を行うこと自体は、不合理な判断ではないのだ。

では、何のために、昨年3月の和平交渉を打ち切って戦争を継続したのか。西側は、ゼレンスキーではなく、プーチンがその座を追われるシナリオを期待したのである。

しかし、プーチン政権が予想以上に強固な支持基盤を国内に築いていることが明らかとなり、ゼレンスキーがプーチンを追い落とすことができないことが判明した今、西側にとってアグレッシブなウクライナを維持することが、果たして得策なのかという疑問が改めて問われることになるだろう。

主なものとして、以下のような問題があると考えられる。

第1に、既に述べたように、アグレッシブなウクライナは欧州の火薬庫となり、欧州の安全保障にとって大きな問題となる。

第2に、長期にわたってウクライナ支援を続けなければならないとすれば、避難民の問題も含めて近隣諸国にとって大きな負担となる。

第3に、自由民主主義の旗印を掲げてウクライナ支援を行ってきたが、汚職がはびこるウクライナをEUの基準まで浄化するのは容易ではない。

第4に、ウクライナで混乱が拡大し、治安が悪化すれば、近隣諸国にもその影響が及ぶだろう。これは避難民の問題のみならず、ウクライナに供与された大量の武器弾薬の密輸・流出なども含まれる。

第5に、ロシアは自国の安全保障のために実力行使をためらわないことが明らかとなったため、ウクライナを西側で維持することはロシアとの緊張を高め続けることとなる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中