最新記事
ウクライナ情勢

「膠着状態」に入ったウクライナ戦争の不都合な真実...西側の支援はそろそろ限界か?

HOW PEACE TALKS CAN BEGIN

2023年10月11日(水)12時30分
亀山陽司(著述家、元ロシア駐在外交官)

231010P48_UJS_07.jpg

イタリアのナポリでウクライナ戦争の停戦を訴える少女 MARCO CANTILEーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES

これらの問題点を踏まえて言えることは、ウクライナがロシアを弱体化させ、プーチンを追い落とすことができないのであれば、安全保障の観点に限れば、欧州、特に近隣の東欧諸国にとって、ウクライナを支援するデメリットは非常に大きいということだ。つまり、ウクライナを西側陣営につなぎ留めることができなくても、欧州諸国の安全保障にとってはむしろ望ましいという判断がなされることも十分あり得る。

そして、ウクライナを西側に引き寄せようとすることは欧州とロシアの安全保障にとって危険であるというこの判断こそ、プーチンが欧州に示そうとしている「事実」なのである。ここには、自由主義とか民主主義とかいったレッテルに基づく政治的価値判断はない。あるのは安全保障上の戦略的判断だけである。おそらく、現在の欧州に最も必要なのも安全保障上の戦略的判断だろう。

アメリカの著名な政治学者であるエドワード・ルトワックは、他国の紛争に第三者が介入することの危険性を指摘している。無責任な第三者の介入は、当事者同士が紛争の決着をつけることを邪魔することで、かえって双方の戦意を温存し、戦争を永続化させることにつながるというのだ。この議論はウクライナ情勢にもよく当てはまる。遠方のアメリカはともかく、欧州は紛争の長期化、永続化によって、自らの安全保障環境を明らかに悪化させている。

ところで、日本の岸田文雄政権はウクライナ支援の姿勢を鮮明にしているが、何を望んでいるのだろうか。いかなる外交政策にも、明確な戦略目標があるはずだ。日本の戦略目標は、紛争当初の欧米のようにプーチンが失脚することなのか、あるいは欧州の安全保障環境を悪化させることで、ロシアと欧州を分断させることなのか。これはアメリカには喜ばれるだろうが、本当に日本の国益になるのだろうか。国家として自国の国益が何なのか、真剣に考える必要があるだろう。

ニューズウィーク日本版 BTS再始動
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月31号(3月24日発売)は「BTS再始動」特集。7人の「完全体」で新章へ、世界が注目するカムバックの意味 ―光化門ライブ速報―

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北朝鮮が固体燃料エンジンの地上燃焼実験、金総書記が

ワールド

ウクライナ大統領がUAE・カタール訪問、防衛協力で

ワールド

全米で反トランプ集会 移民政策やイラン戦争に抗議 

ワールド

米国防総省、イランで数週間にわたる地上作戦を準備=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 4
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 9
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 10
    「酷すぎる...」ショッピングモールのゴミ箱で「まさ…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 10
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中