最新記事
エネルギー

ポーランドのエネルギー革命、原発への巨大投資をもたらす過去の幻影

Poland’s Nuclear Dreams

2023年10月27日(金)14時27分
ポール・ホッケノス(ジャーナリスト)

原子炉建設の財源は?

ワルシャワのシンクタンク「フォルム・エナジー」によれば、昨年は電力供給の21%が環境に優しいテクノロジーによって賄われた。この控えめながらも確かな進展には、政府の助成金プログラムによって太陽光発電設備の設置が過去3年で急増したことが影響している。

いまポーランドでは住宅の4分の1が、太陽光パネルを設置している。政府が助成金を昨年中止しなければ、さらに普及しただろう。調査によればポーランド国民の約60%が地球温暖化は「人災」だと理解し、気候変動対策を価値あるものと考えている。

次期政権を率いるかもしれない市民連立は、2029年末までに主な電力源を石炭から風力、太陽光と原子力に移行させると宣言している。

とはいえ政権交代によって、ポーランドの石炭使用の段階的廃止が加速されるかどうかは分からない。現在は49年までの廃止が計画されている。

この目標は、もっと早めなければEUの気候変動対策の妨げとなり、ポーランド経済にも打撃が及ぶだろう。これまでポーランドは家庭用太陽光パネルの普及という小さな革命を達成しながら、発電所規模の太陽光発電施設や風力発電施設、次世代送電網や蓄電技術の展開には着手しようとしなかった。

「政府はエネルギーの移行を一貫して妨げてきた」と、シンクタンク「インストラト」のミハル・ヘトマンスキ所長は言う。「基本的に政府は、原子力を導入するまでは石炭で賄うという考え方だ」

筆者はギブルジェチェトウェルティニュスキーと会ったときに、アメリカで過去45年間に建設・運用された原発はわずかしかないと話した。これは原子炉の建設に法外なコストがかかるためだ。

アメリカで運用された最も新しい原発は、米ジョージア州のボーグル原発。そこにある2つのAP1000原子炉は、ずさんな管理や監視の不備から建設費用が250億ドルを上回り、主契約業者のウェスティングハウス(ポーランドの契約相手と同じ企業)が一時、経営破綻に陥る事態を引き起こした。

アメリカが建設費用を捻出できないのに、ポーランドはどうやって108基の原子炉の建設費用を賄うのか。私のこの問いにギブルジェチェトウェルティニュスキーは、政府が460億ドルを拠出予定で、それに加えてアメリカの援助もあるはずだと説明した。

さらに彼は、14年のロシアのクリミア併合以降、ポーランドはロシア産の化石燃料から速やかに脱却したと説明。最後に、原発の展開は極めて迅速に行えるだろうとも真顔で語った。

大型原子炉は建設から稼働開始まで約7年半、より小型ならはるかに短期間で可能なのだという。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中