地球温暖化とどう向き合う? データと行動で希望を語る「エコリアリスト」に聞く
HOPE ON CLIMATE CHANGE
「最悪のシナリオは実現可能性が低いという認識が広がり始めている」と、コロラド大学ボールダー校のマシュー・バージェス助教(環境学)は言う。「それでも人々は、気候変動が現実に起きていて、深刻な問題である半面、それが人類にとって最大の脅威とは限らないという可能性をなかなか理解できないらしい」
気候変動に関する今後の見通しが以前よりも明るくなっていることを人々に伝えるべきだと、ヘイホーは主張する。「10年前には、そのままいけば平均気温が4~5度上昇する世界が訪れる可能性があった」と、彼女は言う。「現在では、平均気温の上昇幅は3度程度にとどまるとみられている」
悪夢よりも「希望」を語る
気候科学者たちは長年にわたり、最悪のシナリオを強調することで気候変動問題への人々の関心を高めようとしてきた。しかし、そうしたやり方が裏目に出かねないと、ここにきて考え始めている。極度の不安を抱くあまり、直ちに行動を取るべきときに行動できなくなっている人がとても多いのではないか、と考えるようになったのだ。
気候変動について警鐘を鳴らした初期の有力な論者の中にも、若い世代に希望を持たせることの重要性を指摘する人たちが現れている。
ジェームズ・ハンセンもその1人だ。NASAゴダード宇宙研究所の所長を務めていたハンセンは1988年、米議会の公聴会で証言。気候変動が現実に起きていて、しかも状況が悪化しつつあると発言し、大きな反響を呼んだ。
気候科学分野の世界的権威とされるハンセンが、09年に発表した初の著書『私の孫たちの嵐──迫りくる気候的破滅の真実と人類救済の最後のチャンス』は、タイトルからして不吉だった(邦訳は日経BP刊『地球温暖化との闘い──すべては未来の子どもたちのために』)。
一方、近く刊行予定の新著『ソフィーの惑星』はどうか。「ハンセンは楽観主義を捨てていない。本書は解決策に目を向け、気候観察を必要な政策にどうつなげるか、後に続く若い世代のために、いかに地球を守れるかを問いかける」と、出版元のブルームズベリー社は解説する。
「若者は失望してはならない」。ハンセンは電子メールで本誌にそう述べた。「彼らは難題を抱えているが、それは刺激的な挑戦であり、第2次大戦やベトナム戦争といった過去の多くの問題ほど危険ではない」