地球温暖化とどう向き合う? データと行動で希望を語る「エコリアリスト」に聞く

HOPE ON CLIMATE CHANGE

2023年9月22日(金)13時00分
ダン・ハーリー(サイエンスライター)

230912P18KHD_03.jpg

カ氏110度(セ氏43度)の気温表示(7月16日、アリゾナ州フェニックス) BRANDON BELL/GETTY IMAGES

まだ「世界の終わりではない」

だが、もしも実は気候変動による世界の終焉が差し迫ってはいないとしたら? 未来についての長期的見通しが最近、従来よりはるかにましになっているとしたら?

そう問いかけるのは、新しいタイプの気候活動家、自称「エコリアリスト」たちだ。彼らは政府や産業界、一般市民による過去数年間の前向きな行動が従来の予測をはるかに上回っていると指摘。もちろん、まだ十分ではないものの、大勢の人々が希望を失わず前向きに行動すれば、メリットを拡大できるという。

「気候変動について私たちにできることが何もないのなら、落ち込んだり諦めたりして当然だ。だが未来は自分たちが握っていると気付けば、状況は変えられる。それが私たちの希望のよりどころだ」と、エコリアリストの1人である米環境保護団体「自然保護協会」のキャサリン・ヘイホー主任研究員は言う。

エコリアリストは気候変動が現実ではないと言っているわけではない。世界の終わりを予感させるニュースが飛び交うなかで、希望を持てと言うほうが難しいのは確かだ。

例えば国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は今年3月の報告書で、産業革命前からの世界の平均気温上昇を1.5度以内に抑えるという目標値を2030年代前半に突破する可能性が高いと発表。「全ての人々・生物にとって生存可能で持続可能な未来への扉は急速に閉ざされつつある」と主張した。

一方、エコリアリストたちは過去5年間で別の傾向が表れていると指摘する。19年時点では多くの気候学者が、今世紀末には世界の平均気温は産業革命前から5度近く上昇し、世界の広範囲が居住不能になると予測していた。しかし今では、グリーンエネルギーの使用が以前は考えられなかったほど劇的に増加したおかげで、上昇幅は約2.5~3度程度と、いくらかましになる見込みだ。

エコリアリズムの急先鋒がハナ・リッチーだ。オックスフォード大学が運営するアワ・ワールド・イン・データ(世界の変化をデータで読み解くウェブサイト)の主任研究員で、新著『世界の終わりではない』でも持論を展開している。

「記録的な猛暑と山火事と洪水が続くなかでも、最悪の気候変動を避けられるかもしれないという一筋の希望の光が見えてきている」と、リッチーはワシントン・ポスト紙への最近の寄稿で記した。「温室効果ガス排出量と石炭消費量が世界最大の中国が、再生可能エネルギーへの転換を猛烈なペースで進めている」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中