【ルポ】子供たちをロシアの「同化キャンプ」から取り戻す...ウクライナの母親たちがたどる過酷な旅路
THE KIDS AREN’T ALRIGHT
「ロシア連邦内に1年もいたら、その子の帰国は難しくなる」とクレバは言う。「プロパガンダと洗脳により、自分はロシア人であり、ウクライナは国家ではないと思い込まされてしまう。だから連れ去られた子供たちの救出は待ったなしだ」
セーブ・ウクライナのウェブサイトによれば、これまでに救出した子供の数は200人を超える。なかにはひどい罰を受けたり厳しい管理下に置かれたと話す子もいるし、帰国後に精神科に入院した子供もいる。
マルキナとベルボビツキの子供たちからはひどい扱いを受けたという話は聞かれなかった。だがセーブ・ウクライナによれば、向こうで何があったかについて子供たちが口を開くには時間がかかるケースもあるという。セーブ・ウクライナ主催の記者会見に出席したある子供は、食事をする場所にはゴキブリがいて、枕はかび臭く、たたかれた子供も複数いたと語った。帰国した子供たちは、精神医療の専門家による3カ月間のケアを受けることになっている。
子供たちの居場所の情報は、セーブ・ウクライナの通報用ホットラインを通じ、警察やNGO、それに当事者である母親や子供たちから届く。だが、セーブ・ウクライナのメンバーが国境を越えるのは危険すぎるし、戦時動員のため成人男性はウクライナからの出国を禁じられている。
そこでセーブ・ウクライナは救出ルートのお膳立てをし、寄付金を元に旅費を出すという形で、子供たちの母親や女性の近親者がロシア(もしくはロシアの占領地域)に入る手助けをしている。国境を越えるときに何と言えばいいか、携帯電話からどんな情報を削除しておくべきか、尋問を受けた際はどう対応したらいいかといった指導も行う。
過酷な旅で命を落とした祖母
他の女性たちと共にキーウを出た時、マルキナの手は震えていた。「何か手違いが起きて、娘たちのところにたどり着けないのではないかと本当に怖かった」とマルキナは言う。一行はベラルーシから空路、モスクワに向かい、そこからクリミアまでの1600キロを車で移動した。検問に遭ったり何時間も尋問されるなど肉体的な負担は大きく、65歳だったオルガという女性はクリミアに入る数時間前に心臓発作で死亡した。