最新記事
ウクライナ

F16を切望していたウクライナ空軍のトップガン、訓練中に無念の死

Who Is Andrii Pilshchikov? Ukrainian Pilot Killed in Training Mission Crash

2023年8月28日(月)15時41分
アンドリュー・スタントン

一説ではロシア機40機を撃墜したとも言われる天才パイロット、ジュースは、ウクライナの空にF16を見る前に不慮の死を遂げた Scripps News/YouTube

<コードネーム「ジュース」で知られる天才パイロットは、F16供与をアメリカに求める活動の牽引役でもあった>

ウクライナ空軍の精鋭部隊「キーウの幽霊」に所属する英雄的なパイロット、アンドリー・ピルシチコウが訓練中の衝突事故で死亡した。

<レア動画>命懸けのミッション、コックピットのリアル映像

ウクライナ空軍の発表によれば、ジトーミル州で25日、L39練習機2機が訓練中に空中衝突してパイロット3人が死亡した。

ウクライナ内務省のアントン・ゲラシュチェンコ顧問は、死亡したパイロットの1人がピルシチコウだったことを認めた。ピルシチコウはロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、メディアの取材を何度も受ける有名な存在だった。本名よりも「ジュース」というコールサインで知られていた。

「英雄たちよ、安らかに。ウクライナにとってつらい損失だ」と、ゲラシュチェンコはソーシャルメディア「X」(元ツイッター)に投稿した。「L39は1960年代に開発された。わが軍のパイロットたちは21世紀の戦争を20世紀半ばに開発された航空機で戦おうとしているのだ。彼らの死は、個人的な悲劇というだけではなく、ウクライナの防衛システムにとっても取り返しのつかない損失だ」

ウクライナの捜査当局は、事故機の整備状況や訓練が規則に従って行われていたかどうかなどを調べている。

また、ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は夜の国民向けビデオ演説でピルシチコウについて「わが国に大いに助けてくれた」パイロットと評し、哀悼の意を表した。

ジュースの由来

ウクライナ空軍の報道官はフェイスブックに投稿、ピルシチコウは「空軍航空学における改革の推進役」だったと述べた。

「ジュースは私に、世界の航空学や防空に関するあらゆることを話してくれ、メッセンジャーで大量のメッセージを送ってくれた。非常に細かい話をされるのだが、どういうわけか私はそれに慣れていった」

また報道官は、ピルシチコウが「ウクライナの空をF16戦闘機が飛ぶことを夢見ていた」と述べた。

「1年前にアメリカで、アンドリーはアメリカ政府当局者と面会し、空軍が緊急に何を必要としているかについて話をした。カリフォルニアのパイロットたちとも連絡を欠かさず、F16に関する多くの決断を促す活動を行ったグループの牽引役だった」

米国防省は24日、今秋にアリゾナ州でウクライナ兵向けにF16の訓練を始めると発表したばかりだった。

ウクライナ侵攻が始まって間もない2022年3月のCNNとのインタビューで、ピルシチコウは「ジュース」というコールサインの由来について語っている。アメリカを訪れた際、バーでアルコールを飲まず、ジュースばかり注文していたことから付けられたのだという。

ピルシチコウは対ロシア戦での経験も語った。

「(戦うのは)私の仕事だ。そのための訓練を受けてきた。だから私はこの戦争(で戦う)態勢も準備もできていた」と彼は述べた。「私たちは皆、戦う態勢が整っている」

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中