危険な代理人から権力の座を狙う大物へ...ワグネル・プリゴジン台頭に手を貸したのは悔しくもプーチン...ロシア大統領が与えた「3つの贈り物」とは?
The Rise of Yevgeny Prigozhin
ウクライナ東部バフムートでワグネルの指揮を執るプリゴジン(左端、5月25日) PRESS SERVICE OF PRIGOZHINーUPI/AFLO
<プーチンの「飼い犬」プリゴジンは、3つの段階を経て権力の座を狙うほど増長した>
ロシアに君臨して23年。ウラジーミル・プーチン大統領が、これほどの難局に直面したことはなかった。6月23日、民間軍事会社ワグネルを率いるエフゲニー・プリゴジンが、彼に真っ向から反旗を翻した。
事の重大さは、翌24日にプーチンが行った演説からも伝わる。名指しはしなかったが、「行きすぎた野心と利己主義の末に反逆を起こし」「祖国と民を裏切り」、ワグネルの兵士が命を懸ける「大義に背いた」とプーチンが糾弾したのは、プリゴジンしかいない。
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だが、このときプーチンが語らなかったことがある。それは、前科がありながらケータリング業で成功した男が侮り難い政治力を手にするまでの道のりに、自身がいかに加担したかだ。プーチンは少なくとも3つの方法で、プリゴジンを政界の中枢に導いた。
プリゴジンはまず、国内の政敵を攻撃したり、民衆が政府を支持しているという幻想をつくり出すために忠実な代理人を使うプーチンの戦略の恩恵を受けた。
2004年のウクライナのオレンジ革命の余波を避けるため、ロシアでは青年組織「ナーシ」が設立された。反欧米デモを組織したり、反体制強硬派への攻撃を画策したが、そのナーシも11年の下院選での不正問題に対する大規模な抗議の前には無力だった。
そこでプーチンは、サンクトペテルブルクのケータリング業界の大物だったプリゴジンに助力を求めた。彼はすぐに抗議運動に潜入。デモ参加者を西側の手先として中傷したドキュメンタリー番組にも出資した。後には16年の米大統領選にも介入を試み、アメリカの制裁対象となった。
風をまき、旋風を刈り取る
次にプーチンがプリゴジンの台頭に手を貸したのは、14年のクリミア侵攻作戦のときだった。この戦争には、ロシア軍と緊密に協力する代理勢力が多数関与していた。これらの勢力は、ウクライナ南東部で民衆が蜂起したという錯覚を生み出そうとした。
ここで頭角を現したのが、同じ14年に創設されたワグネルだ。プリゴジンは志願兵の訓練に軍事施設を使う許可を求め、自らの活動にプーチンのお墨付きがあると触れ回った。15年にはシリア介入で暗躍し、治安活動の見返りに天然資源の利権を得た。アフリカ諸国でも強権的政権を支え、ロシア外交官と組んで鉱山業や林業の利権を手にした。
プーチンからプリゴジンへの3つ目の贈り物は、国家機関の無力化だ。選挙管理が強化され、独立系の政党はつぶされた。メディアは大統領府とオリガルヒ(新興財閥)に飼い慣らされた。市民社会は「外国工作員」や「望ましくない組織」を取り締まる新法により壊滅的な打撃を受けた。
そんな無法地帯で、プリゴジンは力を増した。もう誰にも邪魔されずに何でもできる。ワグネルの周辺を調べるジャーナリストは嫌がらせを受け、時には不審な死を遂げた。
そしてプーチンが2度目のウクライナ侵攻に踏み切ると、プリゴジンは政府の危険な代理人から、権力の座を狙う大物へと変貌したのだった。
旧約聖書に「風をまき、旋風を刈り取る」という言葉がある。人の行動の結果は、元の行動よりも大きくなりがちだという意味だ。プーチンのプリゴジンに対する関わり方を、見事に表している。
Robert Horvath, Senior lecturer, La Trobe University and Isabella Currie, PhD candidate, La Trobe University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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