最新記事
不老不死

不死の生き物は口から新しい体を再生して老化を免れていた

This Mysterious Sea Creature Is Immortal. Now Scientists Know Why

2023年7月3日(月)15時55分
ジェス・トンプソン

ヒドラクティニアと近いヒドラの一種。ヒドラクティニアと同じく老化しない。

<永遠に生きるといわれる水中の小さな生物ヒドラ。老いを寄せ付けない生物学的な仕組みの一部がゲノム解析によって明らかになった>

老化しない唯一の哺乳類、ハダカデバネズミ「発見」の意味

不老不死の奇妙なチューブ状の動物が、口から全く新しい体を再生させて老化を免れているという事実が発見された。

ヒドラクティニア・エキナータという名のこの生物は、カニの甲羅の上に生息する小さな無脊椎動物で、まったく老化しないことで知られている。だが、それだけではなく、体内の老化を利用して全く新しい体を成長させることが発見され、論文が生命科学の学術誌「セル・リポーツ」に掲載された。

「珍しい生物の生態を探るこのような研究は、多くの生物学的プロセスがいかに普遍的であるかを明らかにすると同時に、その機能、関係性、進化について私たちが理解していないことがいかに多いかを明らかにしている」と、声明で述べたのは、この論文の共著者チャールズ・ロティミ博士。米国立衛生研究所(NIH)に属する国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)の学内研究プログラムでディレクターを務める人物だ。「このような発見は、人類生物学に新たな気づきを提供する大きな可能性を秘めている。」

ヒドラクティニアが組織の再生を可能にする特殊な幹細胞を持っていることはすでに発見されていた。この幹細胞は、あらゆる種類の体細胞に変化(分化)できる。つまり、新しい体を再生することができるのだ。ヒトは発生の段階でしか幹細胞を使うことができないが、ヒドラクティニアのような動物は一生を通じて幹細胞を使うことができるため、機能的に不死の存在になる。

口から新しい体が生える

ヒドラクティニアは下半身に幹細胞を蓄えているが、今回の研究で判明したのはヒドラクティニアの口を切り取ると、その口から新しい体全体が生えてくることだ。つまり、この生物は新しい幹細胞を生成できるということになる。

研究者らはこうした幹細胞がどのようにして生成されるのかを調べるため、ヒドラクティニアのゲノムをスキャンし、老化すなわち細胞の修復が遅れ、身体やそのシステムが老化することに関連する遺伝子を探した。その方法は論文で説明されている。

この研究でわかったのは、ヒドラクティニアが持つ3つの老化関連遺伝子のうち1つが、口を切った部分に近い細胞でスイッチが「オン」の状態になっていたことだった。この遺伝子をゲノムから削除すると、ヒドラクティニアは再生できなくなる。つまり、新しい幹細胞を再生するためには老化関連遺伝子が必要であることが示唆された。

これは、老化がヒトのような他の多くの動物に及ぼす影響とは正反対だ。

「老化に関する研究のほとんどは、慢性炎症、癌、加齢に伴う疾患に関連している」と、この研究の共著者でNHGRIの上級科学者アンディ・バクセバニスは言う。

「一般的に、ヒトでは老化細胞は老化したままになる。老化した細胞は慢性炎症を引き起こし、隣接する細胞の老化を誘発する。ヒドラクティニアのような動物から、老化が有益に働く可能性を学び、老化と治癒についての理解を広げることができる」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中