プリゴジンが暴いたプーチンの虚像...怒りに震え動揺──ロシア国民が初めて目にした大統領の顔
No Longer Top Dog?
プーチンはやむなく顔を出し、テレビを通じて反乱鎮圧を宣言した。だが、それもむなしかった。正規軍も治安部隊も秘密警察も動かず、プーチンの命令を実行しようとしなかったからだ。
ロシア国民の目には、プーチンが机上の軍隊を動かしているだけと映ったことだろう。しかも最悪なことに、この時点で大統領支持を表明する有力者が一人もいなかった。プーチンがいったん反乱鎮圧を宣言し、その方針があっさり撤回されるまでの間、彼らは様子見を決め込んで、決着がつくのを待っていたようだ。
無理もない。誰に責任を押し付けることもできずに自分自身が前面に出て、一人で事態に対処しようとする。そんなプーチンの姿は前代未聞だった。
そもそも子飼いのプリゴジンに「汚れ役」を引き受けさせ、その代わりにアフリカ諸国などで天然資源の利権を与え、ネット上で情報操作を行う「トロール工場」を運営させ、強力な傭兵部隊を養えるようにしたのはプーチン自身だ。ワグネルとロシア国防省の対立を悪化させ、顕在化させたのもプーチン自身。そして今回、反乱を実力で鎮圧すると宣言しながら撤回したのもプーチン自身だ。
どう見ても優柔不断。しかも、ワグネルの反乱は決して「無血」の政治的策動ではなかった。モスクワに向かう途中で、彼らはロシア空軍機7機を撃墜し、操縦士を含む乗員10人以上を死亡させたと伝えられる。
その情報がすぐにもみ消され、彼らが許されてしまったことに困惑し、怒りを感じた国民は少なくない。その中には、昨日までワグネルの勇猛さを絶賛し、国防省を批判していた人々も含まれる。
6月26日の夜遅く、プーチンは異例の短い演説を行った。ワグネルの戦闘員たちが反乱未遂の責任を問われないことを確認し、「友軍同士の流血」を回避した指揮官たちに感謝すると語った。しかし、自分たちの指導者が事態を掌握できていないのではないかという国民の不安を和らげる助けにはならなかった。
今回の反乱で、反プーチンの守旧派も活気づいた。以前はブロガーや元傭兵など、不満分子の寄り合い所帯にすぎなかったが、今は反プーチンで結束し始めている。
「大統領らしからぬ惨めなパフォーマンス」だとSNSのテレグラムに書き込んだのは、著名な軍事ブロガーで元軍人のイーゴリ・ギルキン(2014年にウクライナ上空でマレーシア航空機が撃墜された事件への関与を疑われている人物だ)。過激な民族主義者で超好戦派のウラジスラフ・ポズニャコフも、「プーチンは現実から切り離されたファンタジーの世界に住んでいる」とこき下ろした。