最新記事
欧州

北方拡大するNATOの「ロシア封じ込め」戦略 バルト海の軍事バランスが大きく変化

2023年7月7日(金)11時06分
ロイター
フィンランドの橋の上で作業をする作業員

北極圏からわずかに南の河川に架かる鉄道橋では、フィンランドの建設労働者らがコツコツと作業に取り組んでいた。同国が4月に正式加盟したことで、北大西洋条約機構(NATO)とロシアの間に長大な境界線が新たに広がった。写真はフィンランド・トルニオの川にかかる橋の上で作業をする作業員。5月撮影(2023年 ロイター/Janis Laizans)

北極圏からわずかに南の河川に架かる鉄道橋では、フィンランドの建設労働者らがコツコツと作業に取り組んでいた。同国が4月に正式加盟したことで、北大西洋条約機構(NATO)とロシアの間に長大な境界線が新たに広がった。ここでは、NATOの大西洋海岸線(ノルウェー)とこの新たな境界線との接続を円滑にするためのプロジェクトが急ピッチで進められている。

現場監督のミカ・ハッカライネンさんはリベットを1本手に取り、「これを1つ1つ外している。約1200本もある」と語る。

この短い区間はスウェーデンとフィンランドの間を結ぶ唯一の短い鉄道路線だ。2022年2月までは、3700万ユーロ(約58億円)を要するその電化事業の恩恵に預かるのは、北欧随一の都市ストックホルムへ向かう夜行列車に乗る地元住民がほとんどになるはずだった。

ロシアによるウクライナ侵攻で、状況は一変した。

フィンランドは今やNATO加盟国であり、スウェーデンも近い将来へ加盟を目指している。

NATOはロシアの軍事行動に対応して戦略の再構築を進めているが、新加盟国の領土とインフラにアクセスできるようになったことで、NATO加盟国がロシア政府を監視し封じ込める道が新たに開かれた。また北西ヨーロッパ全体を1つのブロックとして扱うという過去に例のない機会も巡ってきている──。ロイターの取材に応じた20人以上の外交官や安全保障専門家はこうした見方を示した。

「ロシアを窮地に追い込む」

フィンランドがスウェーデン国境に近いトルニオ近郊で鉄道の電化整備を進めている冒頭のプロジェクトは、その1例だ。来年完了予定で、他の加盟国が大西洋岸からフィンランドのケミヤルビまで増援部隊や装備を送ることがこれまでより容易になる。ケミヤルビはロシア国境まで車で1時間、コラ半島に位置するムルマンスク近郊の核兵器関連施設や軍事基地までは7時間の位置にある。

フィンランド国際問題研究所(FIIA)が収集したデータによれば、ムルマンスク近郊のロシア軍基地に駐留する部隊の中でも、ロシア北方艦隊は潜水艦27隻、水上戦闘艦40隻以上、戦闘機約80機を擁し、核弾頭とミサイルを保管している。

NATOと武力衝突が生じた場合、ロシア軍北方艦隊の主な任務は、バレンツ海の制海権を確保し、グリーンランドやアイスランド、英国間の海域経由で北米から欧州に向けて増援部隊を輸送する船舶を阻止することになる。

そこで、フィンランドの存在がNATOによる抗戦にとって重要になる。

「北方からのロシアの作戦能力を封じ込めることが第一だ」と、米国のゴードン・デービス退役少将はロイターに語った。

フィンランド政府は同盟国に自国領土を使わせるだけでなく、戦闘機を中心に適切な装備の購入を進めている。「北東防衛をより価値あるものにし、率直に言えば、紛争時にロシアを窮地に追い込むためだ」とデービス氏は言う。

試写会
『クィア/Queer』 ニューズウィーク日本版独占試写会 45名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中