最新記事
欧州

北方拡大するNATOの「ロシア封じ込め」戦略 バルト海の軍事バランスが大きく変化

2023年7月7日(金)11時06分
ロイター

スウェーデンによる貢献の1つは、2028年までにバルト海で新世代の潜水艦群を展開することだ。同国第1潜水小艦隊を率いるフレデリク・リンデン司令官は、脆弱(ぜいじゃく)な海底インフラの防衛とアクセス確保という点で大きな差が生まれるだろうと話す。2022年9月のノルドストリーム・ガスパイプラインの破壊に見るように、現在ではこれが安全保障上の大きな悩みの種になっている。

リンデン司令官は、「潜水艦が5隻あればバルト海は封鎖できる。我が国のセンサーと武器によって、重要な水域をカバーする」と話した。

アナリストらは、こうした改革も遅すぎるくらいだと指摘する。FIIAのサム・パウクネン副理事長はロイターの取材に対し、ロシアはこれまで積極的に、時に国際的な環境保護や経済協力を装いつつ、北極海における対西側の軍事力やハイブリッド戦能力を高めてきたと指摘する。ロシア国防省にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

FIIAでは、北極圏では、西側諸国の軍事力はロシアより約10年遅れていると推計している。

ロシア軍はウクライナで損失を重ねているが、ロシア北方艦隊と戦略爆撃機は無傷のままだとパウクネン氏は指摘する。

「一体として捉える」

フィンランドとスウェーデンの動きは、NATO拡大によって欧州の安全保障の構図がどのように変化するかを示している。南はバルト海から北極圏に至る地域が、NATOにとってほぼ統合された作戦領域になる可能性がある。

NATO変革連合軍のマイケル・モース中佐はロイターに対し、「NATOにとって、北欧全体を一体として捉えることが非常に重要だ」と語った。モース中佐は、NATOへのフィンランド軍の統合を主導する作業部会の責任者を務めた。

「ノルウェーやデンマークという(既存の)NATO加盟国に加え、いまや我々は北欧全体を手にしている。どのような防衛プランが可能か考えるうえで、北欧を一体の領域として考えられるというのは、我々にとって非常に大きな前進だ」

それが鮮明になったのが今年5月だ。北極圏内に25キロ入った欧州最大の砲撃演習場の1つで、フィンランドがNATO加盟国として初めて北極圏軍事演習を行った。

演習場に近いロバニエミの街は、観光客にはサンタクロースの故郷として知られるが、フィンランド空軍の基地があり、紛争時にはこの地域の軍事的な重要拠点として機能することになる。フィンランドは2026年配備予定のF35戦闘機64機の半数の収容を可能とするため、約1億5000万ユーロを投資して基地の改修を進めている。

5月に行われた大演習では、米国や英国、ノルウェー、スウェーデンから1000人近い同盟軍部隊が参加し、フィンランド軍約6500人や軍用車両1000台とともに、原野を貫く高速道路を埋め尽くした。

米陸軍野戦砲兵隊長のカート・ロッシ大尉は、隊を指揮して多連装ロケットシステムM270を運び込んだ。

最初はドイツからバルト海経由で海上輸送し、それから北部に向けて900キロ近くをトラックで運んだ。

「これほど(ロシアに)近づき、フィンランドで演習を行うのは初めてだった」とロッシ大尉は言う。

バルト海沿岸でロシアとの紛争が生じたらどうなるか。ロシアはサンクトペテルブルクとカリーニングラードにかなりの戦力を保持しており、5月演習でNATOが使った輸送ルートは危険にさらされることになる。

その場合、最北部を東西方向に横断する鉄道が代替ルートとなり、情勢を決定づける可能性がある。

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中