北方拡大するNATOの「ロシア封じ込め」戦略 バルト海の軍事バランスが大きく変化
北極圏からわずかに南の河川に架かる鉄道橋では、フィンランドの建設労働者らがコツコツと作業に取り組んでいた。同国が4月に正式加盟したことで、北大西洋条約機構(NATO)とロシアの間に長大な境界線が新たに広がった。写真はフィンランド・トルニオの川にかかる橋の上で作業をする作業員。5月撮影(2023年 ロイター/Janis Laizans)
北極圏からわずかに南の河川に架かる鉄道橋では、フィンランドの建設労働者らがコツコツと作業に取り組んでいた。同国が4月に正式加盟したことで、北大西洋条約機構(NATO)とロシアの間に長大な境界線が新たに広がった。ここでは、NATOの大西洋海岸線(ノルウェー)とこの新たな境界線との接続を円滑にするためのプロジェクトが急ピッチで進められている。
現場監督のミカ・ハッカライネンさんはリベットを1本手に取り、「これを1つ1つ外している。約1200本もある」と語る。
この短い区間はスウェーデンとフィンランドの間を結ぶ唯一の短い鉄道路線だ。2022年2月までは、3700万ユーロ(約58億円)を要するその電化事業の恩恵に預かるのは、北欧随一の都市ストックホルムへ向かう夜行列車に乗る地元住民がほとんどになるはずだった。
ロシアによるウクライナ侵攻で、状況は一変した。
フィンランドは今やNATO加盟国であり、スウェーデンも近い将来へ加盟を目指している。
NATOはロシアの軍事行動に対応して戦略の再構築を進めているが、新加盟国の領土とインフラにアクセスできるようになったことで、NATO加盟国がロシア政府を監視し封じ込める道が新たに開かれた。また北西ヨーロッパ全体を1つのブロックとして扱うという過去に例のない機会も巡ってきている──。ロイターの取材に応じた20人以上の外交官や安全保障専門家はこうした見方を示した。
「ロシアを窮地に追い込む」
フィンランドがスウェーデン国境に近いトルニオ近郊で鉄道の電化整備を進めている冒頭のプロジェクトは、その1例だ。来年完了予定で、他の加盟国が大西洋岸からフィンランドのケミヤルビまで増援部隊や装備を送ることがこれまでより容易になる。ケミヤルビはロシア国境まで車で1時間、コラ半島に位置するムルマンスク近郊の核兵器関連施設や軍事基地までは7時間の位置にある。
フィンランド国際問題研究所(FIIA)が収集したデータによれば、ムルマンスク近郊のロシア軍基地に駐留する部隊の中でも、ロシア北方艦隊は潜水艦27隻、水上戦闘艦40隻以上、戦闘機約80機を擁し、核弾頭とミサイルを保管している。
NATOと武力衝突が生じた場合、ロシア軍北方艦隊の主な任務は、バレンツ海の制海権を確保し、グリーンランドやアイスランド、英国間の海域経由で北米から欧州に向けて増援部隊を輸送する船舶を阻止することになる。
そこで、フィンランドの存在がNATOによる抗戦にとって重要になる。
「北方からのロシアの作戦能力を封じ込めることが第一だ」と、米国のゴードン・デービス退役少将はロイターに語った。
フィンランド政府は同盟国に自国領土を使わせるだけでなく、戦闘機を中心に適切な装備の購入を進めている。「北東防衛をより価値あるものにし、率直に言えば、紛争時にロシアを窮地に追い込むためだ」とデービス氏は言う。