携帯式地対空ミサイル「スティンガー」の不足がウクライナ軍反攻の足を引っ張り始めた。アメリカでは増産のため70代の元従業員も駆り出す事態に
U.S. Retirees Called In To Make Stinger Missiles in Boost for Ukraine
前線で守りの中核になった携帯式地対空ミサイル「スティンガー」を構えるウクライナ兵(ミコライウ、2022年8月11日) Anna Kudriavtseva-REUTERS
<ローテクで地味なスティンガーがこの戦争では前線の防衛の要になっている。スティンガー不足の前線は優位な立場を失いつつある>
ウクライナ軍がロシア軍と戦う上で強力な武器となっているアメリカの携帯式地対空ミサイル、スティンガー。報道によれば、製造元の米レイセオンではウクライナにスティンガーを送るため、引退した技術者たちまで駆り出して増産しているという。
正式名称「FIM-92スティンガー」を、アメリカはこれまでに2000基近くウクライナに供与してきた。スティンガーはロシア軍機、とくに攻撃ヘリの撃墜に大きな成果を上げており、米バイデン政権は6月、追加供与の方針を明らかにした。
スティンガーミサイルの援護があれば、地上部隊は航空機の支援がなくても、敵の航空機を撃ち落とすことができる。
スティンガーの製造が始まったのは1978年。それ以降、幾度となく改良が重ねられてきた。古い武器なので、増産が決まったからといって3Dプリンターで量産できるようなパーツはない。
要するに、スティンガーの製造は40年前と同じ方法でやらなければならない。「70歳代の元従業員たちを呼び戻している」とレイセオン・テクノロジーズのミサイル防衛部門の責任者であるウェス・クレマーは述べた。何十年も前の設計図を使ってミサイルを作っていた人々だ。
追加供与が決まったとは言え、3Dプリンターを使って量産というわけにはいかない。そうするには再設計が必要になり、認可を受けるのに長い時間がかかってしまう。
「倉庫から試験装置を引っ張り出して、クモの巣を払った」とクレマーは言う。一部の構成部品は再設計した。使われていた電子機器が時代遅れになっていたからだ。
軍事アナリストのアラン・オアは本誌に対し、「(ウクライナの)スティンガーは明らかに底をついており、ロシアもそれを分かっている」と語った。
反攻の中核
スティンガーの不足はウクライナの反攻の足かせになっている、とオアは言う。空からの攻撃を防ぐ手段なしに、ウクライナ軍は「ロシアの地雷や砲撃をくぐり抜けることができない」。
「スティンガーがなければ戦況は悪化し、部隊はロシアの攻撃ヘリの遠隔攻撃のいい標的になってしまう」と彼は述べた。
「もともとスティンガーは(対戦車ミサイルの)ジャベリンと違い、第一線の防衛の中核となる兵器ではなかった。だが(現実には)疑いなくそうなっている。今や反攻の中核だ」とオアは言う。
「スティンガーはローテクで地味だが、ウクライナ軍が優勢になるためのカギになっている。そして各地の前線でその有利な立場を手放しつつある。その結果を、われわれは目のあたりにしている」