プーチンが反乱首謀者プリゴジンをすぐには処刑しない理由
Putin's New Prigozhin Dilemma
ISWの分析によれば、プーチンのこの発言は「不正取引の罪でプリゴジンの資産を押収するための地ならし」の可能性がある。
さらにプーチンは「意図的にプリゴジンとワグネルの切り離しを図っている」と、ISWは指摘する。「プリゴジンからワグネルの創設者という肩書きを奪い、ワグネルに対する指導力を低下させようとしている可能性がある」というのだ。
「ロシア政府としては、ワグネルの兵士を正規軍に組み入れて、ウクライナ戦争で引き続きその戦力を使いたい」。そのために、プリゴジンを国家からせしめた金で私腹を肥やし、ウクライナや西側と結託した極悪人に仕立てる「情報工作」を始めた可能性があると、ISWのアナリストはみる。
「プリゴジンは、ロシア軍とロシア政府の官僚が腐敗し、西側と結託していると批判することで、自身のブランドを確立してきた。プーチンはそれと同じ罪を彼に着せることで、大衆のプリゴジン支持を切り崩そうとしているのではないか」と、ISWの報告書は述べている。
プリゴジンの支持者はロシア市民や正規軍の兵士の間にも一定数いるため、彼を処刑すれば、彼は大義のために殺された「殉教者」に祭り上げられるだろう。そのことはプーチンも承知している。
プーチン支配の終わりの始まり
「クレムリンはプリゴジンの支持者を幻滅させ、ロシア国内でのプリゴジン人気をつぶす必要がある」と考え、「引き続き人格攻撃を行い、評判を貶めて、資金力を完全につぶし、ワグネルの兵士が彼に付いてベラルーシに行くのを防ごうとするだろう」と、ISWは予測している。
一方ルカシェンコは27日、プリゴジンはベラルーシに到着したと発表した。
ロシアの元外交官で、ウクライナ侵攻に抗議して外交官職を辞したボリス・ボンダレフは、プリゴジンの乱はプーチン支配の終わりの始まりだと本誌に語った。
戦争が長引くにつれ、ロシアのエリート層はプーチンに不満を募らせていると、ボンダレフはみる。今の空気ではプーチンがお払い箱になるのは時間の問題だというのだ。
「戦争は既に1年4カ月も続いており、誰もがしびれを切らしている......状況が悪化の一途をたどるなか、国内のムードは変わりつつある」
ボンダレフによれば、「エリート層の間では失望、怒り、焦燥感がじわじわと蓄積していた」。そこに反乱が起きたことで、ウクライナ侵攻は「重大な間違い」であり、今のロシアは「非常に不健全な状況に陥っている」と、多くの人が気づき始めたというのだ。
こうした意識は早晩、「プーチン退陣」を求める巨大なうねりになると、ボンダレフはみる。「プーチン追い落としの動きはこれからさらに活発化するだろう。表立った反乱ではなく、おそらくは密かな策略の形で......」