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月を開発の無法地帯にしてはいけない...より透明で公平な月探査の基盤を築くには

NO SECRETS ON THE MOON

2023年6月28日(水)13時50分
レイチェル・ウィリアムズ、サミュエル・ジャーディン(いずれもNPO「オープン・ルナー・ファウンデーション」研究員)

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謎のロケットの一部が月面に衝突してできた2重クレーター(2022年3月) NASA/GODDARD/ARIZONA STATE UNIVERSITY

信頼関係の構築が第一歩

それでも地球には、価値観も利害も異なるステークホルダーを取りまとめるためのヒントがある。その1つがカナダのグレートベア・レインフォレスト合意。政府、環境保護団体、先住民団体と林業界が利害の対立を超えて協調と譲歩に力を尽くし、16年、生態系に基づいて温帯雨林を管理する合意を実現した。

同様にインターネットのドメイン名やIPアドレスを世界的に管理する非営利団体ICANNは「マルチステークホルダー・モデル」を活用し、多様な利害関係者に議論と意思決定を促すことに成功した。これは意思決定の過程で全てのステークホルダーに発言権を認めつつ、運営における透明性と説明責任を保ち、ネットの安全と安定、相互運用性を維持するガバナンスモデルだ。

こうした手本を月に適用するには、信頼関係を構築するのが先決。ステークホルダーが懸念や提案を表現するプラットフォームとして、諮問グループを使うのもいい。この場合、政府系宇宙機関、民間企業、国際組織、科学界、市民団体などあらゆるステークホルダーに、その声を代弁するグループが必要になる。

関心事はさまざまだ。政府系機関と民間企業の関心事は、月探査の権利かもしれない。科学界は研究の機会に、市民団体は倫理的で持続可能な資源利用に関心を寄せるかもしれない。登録簿を構想する段階で全てのステークホルダーに意見を求めれば、いざ運営が始まったときに積極的な参加が期待できる。

これまでの取り組みもヒントになる。遵守されているとは言い難い国連登録簿だが、参加者に求める情報を決める際には参考になる。

また、法的拘束力のある条約(ここでは宇宙条約)が実際に守られるとは限らない現実も明らかになった。むしろ規範の形成を重視する自主的な「バイイン(積極的関与)」型のアプローチのほうが成功する可能性が高いかもしれない。

そのモデルの1つが、参加国の自主的報告に基づくIAEA(国際原子力機関)の原子炉とプルトニウム保有量のデータベースだ。核技術と核物質は軍事転用が可能なため非常にデリケートな存在だが、国家の主権に基づく決定を尊重しつつ、枠組みへの参加を通じた信頼構築を促すバイイン型アプローチによってデータベースへの信頼が保たれている。

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