最新記事
宇宙

月を開発の無法地帯にしてはいけない...より透明で公平な月探査の基盤を築くには

NO SECRETS ON THE MOON

2023年6月28日(水)13時50分
レイチェル・ウィリアムズ、サミュエル・ジャーディン(いずれもNPO「オープン・ルナー・ファウンデーション」研究員)
アルテミス

ケネディ宇宙センターから打ち上げられた月探査計画「アルテミス」のロケット(2022年11月) JOEL KOWSKY/NASA

<国家や企業の利害と思惑が複雑に入り乱れる月世界、安全な探査・開発に向けてステークホルダーが「登録簿」で情報共有を>

2022年3月、何年も前から宇宙を漂流していたロケットが月に墜落した。その衝撃で月面に新たなクレーターができ、破片が飛び散った。ロケットの「身元」については議論の余地があるが、この墜落は宇宙空間の混雑に伴って課題と危険も増えることを、改めて印象付けた。

月は昔から人間の想像力を刺激してきた。だが技術の進歩、地政学的な対立、そして月に眠る資源への期待から、近年その探査競争がエスカレートしている。

例えば米NASAと中国国家航天局は探査機の着陸候補地として、月の南極付近の同じエリアを挙げている。こうした競争から浮かび上がるのは、月での活動に関する総合的な理解の必要性だ。月を安全に首尾よく探査するには、関係者同士の緻密な調整が欠かせない。

だが今のところ、情報を共有して検証する仕組みはない。言い換えれば、ある時点で誰が月で何をしているかを確実に知る手段は存在しない。このままでは政治的緊張が高まり、事故が発生し、月の環境が破壊されるリスクが高まる。現状では、増え続ける月での活動を効果的に規制・調整し、モニタリングする準備がまるで整っていないのだ。

そこで求められるのが「月活動登録簿」──月で人類が行う活動を、過去から現在、未来へと全て網羅するデータベース──の設立だ。位置、座標、規模、今後の活動内容といった基本情報を共有すれば、事故や関係者間の衝突を防ぎ、減らすのに役立つだろう。

参加を促すために、月活動登録簿の管理はさまざまなステークホルダー(利害関係者)のニーズを考慮して設立された中立的な非営利団体などの第三者が行うべきだ。複雑に絡み合う探査と開発を管理するのに、登録簿の設立は重要な一歩になる。

簡単には進まないだろう。宇宙での競争は激しく、地球上の多極化した緊張がそのまま反映される。国家は利益と主権に極めて敏感で、国際ガバナンスの土台である信頼関係に乏しい。企業は当然のことながら、活動の詳細を明かしたがらない。

登録制度の取り組みはこれまでもあったが、機能させるのは難しい。国連宇宙部は「宇宙空間に打ち上げられた物体に関する国連登録簿」を設けており、これまでに打ち上げられた衛星や探査機の88%が登録されているとする。しかし提出すべき重要な情報を主要な関係者が出さない、あるいは詳細を報告しないことは珍しくない。登録簿の存在を無視する者もいる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、8月下旬から少なくとも8200万ドルの

ビジネス

クーグラー元FRB理事、辞任前に倫理規定に抵触する

ビジネス

米ヘッジファンド、7─9月期にマグニフィセント7へ

ワールド

アングル:気候変動で加速する浸食被害、バングラ住民
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中