最新記事
安全保障

前提として中国への敬意が必要...「上から目線」な新任国防相が演説、安全保障構造を構築するための4提案とは?

CHINA’S SECURITY VISION

2023年6月27日(火)12時50分
シャノン・ティエジー(ディプロマット誌編集長)
中国の李尚福(リー・シャンフー)国防相

中国の李尚福(リー・シャンフー)国防相 Mark Cheong/The Straits Times via REUTERS

<アメリカと目標を共有しながら「上から目線」で語る新任の国防相は「アジア有事」を避けることができるか>

異例の3期目に突入した中国の習近平(シー・チンピン)政権がアジア地域の安全保障についてどんな新機軸を打ち出すのか。関係各国が慎重に見守るなか、6月4日にシンガポールで開かれた年に1度の「シャングリラ・ダイアローグ」(英国際戦略研究所主催)の演壇に、中国の李尚福(リー・シャンフー)国防相が立った。3月に就任した李にとっては、これが国際会議の初舞台だった。

もちろん注目度は高かった。講演には「中国の新しい安全保障イニシアチブ」とタイトルが付けられていたため、中国の「グローバル安全保障イニシアチブ(GSI)」の詳しい内容がついに明らかになると期待されていたからだ。

GSIは習が2022年4月に提唱した安全保障のビジョンだ。発表から1年がたち、今年2月には大枠の概念が発表されたが、その全容はいまだ明確ではない。

李は演説冒頭、GSIを「どう具体化していくかについての中国の考えを共有」すると前置きした。だが結局、有意な具体的提案が示されることはなかった。

演説の大部分を占めたのは、アジア地域の緊張激化は「アメリカの責任」だとする長広舌だった(李はアメリカを名指しせず、「ある国」「ある大国」という見え透いた婉曲表現を使った)。演説の前半は「誰が地域の平和を乱しているか」という問いを中心に構成されていた。もちろん、答えは言わずもがなだ。

ここから分かるのは、安全保障に関する中国のビジョンがほぼ受け身で、中国が何を「望まない」かを中心に構成されている事実だ。李が演説の冒頭で並べた「望まないこと」リストには「小国いじめや覇権主義」「内政干渉」「二重基準」「軍拡競争の激化」などが含まれる。いずれも、中国通の人でなくても知っていることばかりだ。

では中国が「望んでいる」こと、つまり安全保障についての積極的なビジョンは何なのだろうか。

李は演説の後半で「開かれた、包括的な、透明性のある、公正な」安全保障構造を構築するためとして4つの提案を行った。

例外主義や二重基準を批判

彼はまず、中国には「強力な安全保障と信頼構築制度を築くために全ての当事者と協力する」意思があると表明。具体的には中国との間で領有権争いを抱える国々(インド、ベトナム、フィリピンなど)との対話強化に言及した。さらに、より一般的な提案として「空と海の安全保障に関する協議を促進し、また海上衝突回避規範(CUES)の遵守と継続的な改善により、リスクと危機の管理」を行うことを提唱した。

試写会
『クィア/Queer』 ニューズウィーク日本版独占試写会 45名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

連邦政府の裁量的支出削減では債務問題は解決せず=F

ビジネス

米フォード、新車価格引き上げも トランプ氏の自動車

ビジネス

カナダ中銀、金利据え置き 米関税で深刻な景気後退の

ビジネス

米国株式市場=急落、ダウ699ドル安 FRB議長が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 9
    あまりの近さにネット唖然...ハイイログマを「超至近…
  • 10
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 10
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中