最新記事
安全保障

前提として中国への敬意が必要...「上から目線」な新任国防相が演説、安全保障構造を構築するための4提案とは?

CHINA’S SECURITY VISION

2023年6月27日(火)12時50分
シャノン・ティエジー(ディプロマット誌編集長)

2つ目に、中国は「より公正な安全保障の規則を推し進める」考えだと李は述べた。

これに先立ち、彼は規則に基づく国際秩序を掲げている「どこかの国」(つまりアメリカ)が「規則の具体的な内容や誰がそれを決めたのかを明かさない」ことに不満を述べていた。李はまた、規則が全ての国に平等に適用されない「例外主義」と「二重基準」も批判。中国は「安全保障の規則」に関する新たなビジョンを推し進めることで、これらの懸念に対処していくと述べた。

その一方、中国は既存の秩序を全て覆したいわけではないとも強調した。また「宇宙、サイバー空間、バイオセキュリティーなどの新興分野(まだ確固たる国際的な規則や規範が存在しない分野だ)での規則作りを検討」していきたいと述べた。

3つ目に李が述べたのは、中国として「多国間安全保障メカニズムの改善」を目指すという考えだ。その具体例として彼が言及したのが、アジア信頼醸成措置会議(CICA)と上海協力機構(SCO)だ。だがどちらのグループにおいても、多国間安全保障協力はまだ初期段階にある。それは李も承知で、「制度構築」は今後の課題だと述べた。

最善の方法は「近づくな」

4つ目の点は、中国が合同軍事演習などを通じて「より効果的な防衛・安全保障面の協力を進めていく」ということ。ここで李が特に強調したのは、中国が「対テロ、海洋安全保障とHADR(人道支援および災害救援)」を含む「非伝統的な安全保障上の課題」に対処する能力の構築に重点を置いている点だ。

これらの具体的な提案内容を見ると、中国とアメリカの見解にはかなりの共通点があることが分かる。

ジョー・バイデン米大統領は、米中対立のさらなる悪化を防ぐための「ガードレール」の設定をたびたび呼びかけてきた。その内容は李の提案ととてもよく似ており、対話と信頼構築措置、サイバー空間のような新興分野でのルール作りに関する交渉や、多国間フォーラムへの積極的な関与などだ。

問題は、李が一連の提案を長ったらしい攻撃的な批判の中に埋もれさせてしまったこと。そしてニュースでは、前半の批判の部分ばかりが取り沙汰されたことだ。このことは、信頼構築や新興分野でのルール作りに関する交渉の取り組みにとって逆効果となるだろう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中