イスラエル極右政権の復権と報復の連鎖──止まらない民衆間の暴力
増加する民衆間の暴力
近年の動向の中で懸念されるのは、これら政府レベルの決定や扇動だけではない。イスラエル・パレスチナ双方の一般の人々の間でも、互いへの暴力の行使は拡大し、頻発する傾向にある。こうした変化は数年前から起きており、警察による歯止めも効かない状態となっている。
エルサレム市内でのパレスチナ人家族の立ち退き問題をめぐり2021年に起きた衝突では、ガザ地区からのロケット弾攻撃とそれへの報復としての空爆に加えて、一般民衆の間でも多くの襲撃事件が起きた。
衝突はパレスチナ自治区内にとどまらず、イスラエル国籍のパレスチナ人をも巻き込むものとなった。
テルアビブ郊外のロッドでは、通りがかったパレスチナ人タクシー運転手が車から引きずり出され、暴徒化したイスラエル人に殴打される事件が起きた。当時も首相であったネタニヤフはロッドに緊急事態宣言を出したが、騒乱は拡大し、イスラエル警察による制止によっても一時制御不能な状態に陥ったという。
これらの暴動はSNSを通して情報が拡散され、急速に広まるという性質をもつ。ロッドでの襲撃も一部始終が携帯電話で録画され、動画が配信された。
右派のユダヤ人はSNS上で「イスラエル・アラブ(パレスチナ人)を襲え」と呼びかけた。これに対してパレスチナ側からの暴力行使も拡大している。ユダヤ教の礼拝施設シナゴーグや宗教施設が襲撃の対象とされ、各地で焼き討ちされたり、多数の犠牲者が出たりする事態となっている。
今年1月27日にも、東エルサレムのネヴェ・ヤアコブ地区のシナゴーグ前で銃撃事件が起こり、7人が死亡するかつてない事態となった。実行犯の男性は、これは前日にジェニンで起きたイスラエル軍による攻撃への報復だと述べた。事件が起きたのはユダヤ教の安息日で、ホロコースト追悼の記念日でもあった。
第三次インティファーダへの発展の可能性
こうした民衆間の暴力の拡大は、今後どのような展開をたどるのだろうか。イスラエル側に関していえるのは、政府による制止の有効性は低いと考えられるということである。衝突が起きるたびに、治安組織としてイスラエル警察や軍は派遣され事態の収拾を図るが、その到着以前に被害はすでに甚大なものとなっている。
また入植者による襲撃は、イスラエルの主要閣僚による個人的なお墨付きを得ており、彼らの行為を厳罰に処して抑止効果を得ることは不可能である。極右を含む連立政権が解消されない限り、入植者の専横を止めることはできない。